小夜啼鳥が愛を詠う

「でも、小門家はいつもイイ食材使ってはる、って、ママが言ってますよ?」

「食材は良くても、出来上がった料理は夏子さんの足元にも及ばんけどな。……って、うちの母にもあおいにも、内緒な。」

社長は慌ててそうつけ加えてから、眼鏡をかけ直した。

細い純銀のフレームが柔らかく光る。

かっこいいなあ、と見とれた。

薫くんより知的で穏やかな雰囲気……だけど、佐々木コーチが言うには、高校時代の社長はオラオラなところもあったとか。

いずれは薫くんも社長みたいに素敵な大人の男になるのかなあ。

「……明日……。」
ためらいがちに、社長が口火を切った。

「はい?」

「……いや。……京都の……文化人だけじゃなく、経済界の面々も来るんだろうね。」
社長は珍しく要領を得ないことを言った。

「はあ。朝秀冬夏先生はライオンズクラブの役員もされてたそうですし、お顔、広そうですもんね。……どなたかお知り合いも来られるんですか?会社関係なら、ご挨拶して参りましょうか?」

出過ぎたことかもしれない、と思いながらそう聞いてみた。

すると社長は、苦笑した。

「……さっちゃんは、普段は控えめやけど、やっぱりしっかりしとるわ。……せやな。もし機会があったら?名刺持ってって、挨拶しといで。さっちゃんもデータで見覚えあるいくつかの会社の代表と役員が来てると思うわ。」

取引先、ってことかしら。

「わかりました。……あの……その際、光くんは……」

紹介すべきなのかしら?

社長の長男だけど会社にノータッチ……って、難しいな。

「光のことは、気にしないでいいから。自分で空気読むだろ。」

社長はそう言ってから、さりげなく言葉を足した。

「俺とあおいの学生時代の友人も参列するだろうから、光に紹介するよう言うとくわ。」

……光くんも知ってるヒトなんだ。

「はい。名刺、多めに持って行きます。」

「ああ。よろしくゆーといて。」

社長は書類を私に手渡すと、席を立った。

「帰るわ。お先。……それ、来週でいいし。さっちゃんも早よ帰って、早よおいで。」

「はい。お疲れさまでした。」


社長を見送ってから、私は渡された書類に目を通した。

京都の新興大企業のグループ会社の電子製品の開発チームの内部資料の一部だ。