小夜啼鳥が愛を詠う

薫くんは、高校を卒業したら、もう本格的にサッカーをすることはないだろう。

……菊地さんが趣味のサッカーチームに参加してほしがって手ぐすね引いて待ってるけど……あくまで余暇のスポーツ程度。

インターハイで負けた時点で、薫くんのサッカー生活は終わり。

あとは、受験勉強一色になる予定だ。

サッカー推薦で進学するつもりもないらしく、選手権は出場どころか応援にも行けないはず。

悔いのないよう、薫くんも、家族も、私たちも全力参加だ。


「コーチだけは片手間やけどな。」
薫くんは苦笑いしてるけど、まあ……それでもがんばってくださってると思うよ。

佐々木コーチは、2回戦の試合終了のホイッスルを聞くなり、待たせていたタクシーで劇場へ向かった。

7週間の公演期間中たった3回しかないみゆちゃんの口上を聞きたかったんだもんね……しょうがないよ、うん。

でも、このあともずーっとこのことを揶揄され続けた。
……お気の毒。


順調に薫くん達は勝ち進み、椿さんは新人公演を終え、みゆちゃんのお茶飲み会を迎えた。

佐々木コーチは大盤振る舞い。

親類縁者、サッカー部員だけじゃなく、新聞記者やテレビ関係者までその日の公演に招き、会場を移して、お茶だけじゃなく豪華なお料理を出してお客さまをもてなした。

プロの司会を頼み、みゆちゃんグッズを作ってばらまき、みゆちゃんもノリノリで何曲も歌を披露した。

……あとから、やり過ぎを上級生に怒られたらしいけど、プロデュース効果は相当大きかったと思う。

スポーツ紙は千秋楽の翌日、研1のみゆちゃんが写真入りで掲載していた。


「すごいわねー。みゆちゃん。いきなり次の公演で、椿ちゃんと新公で組むかもねー。」

ママの希望的予言は2年越しで、椿さんの最後の新人公演に持ち越されたけど、それは、また、別の、お話。




「さっちゃん。今夜の夕食、神戸牛やって。早めにいらっしゃいね。残業とかしなくていいから。」

野木さんの結婚式前日、あおいさんはそう言って退社した。

「はぁい。これだけやったら、帰ります。また、のちほど。お疲れ様でした。」

「……普段は三田牛やのに。さっちゃんとマスターのおかげやな。」

社長が書類から目を離し、眼鏡を拭きながらそう言った。