小夜啼鳥が愛を詠う

野木さんは、明らかに垢抜けていた。

おフランス帰りだから?

いや、どう見ても、幸せオーラじゃない?

もしかして……野木さん、フランスで明田先生と……とうとう、うまくいったのかしら?

「そう?なんか、照れくさいな。」

照れてる!?

野木さんが、照れてる!
女の子だっ!

「えー。かわいい。今って、京都よね?朝秀先生の窯にまだいるの?……とても、土をいじってる職人さんには見えないよ?」

多少偏見っぽいこと言っちゃったけど、野木さんは気を悪くしなかったようだ。

「あはは。そうね。……あのさ。報告がある。終わってから、別れ際にささっと言おうと思ってたんだけど……照れるな……えーとね、」
野木さんはそこまで言って、うつむいた。

「さっちゃん、プログラム買ってきたよ。……あれ?野木さん?」
紫色の袋をぶら下げて、光くんがやってきた。

……野木さん、光くんを見て、照れちゃったのかな?

「ども。小門兄。元気そう。……そうだ。明田さん、来月、日本に来る。小門兄にも会いたいと思う。会ってあげて。」
うつむいて、ぼそぼそと野木さんは言った。

「え……。そうなんだ。……何年ぶりだろう。懐かしいな。」
他人事のように光くんはつぶやいた。

「うん。明田さん、だいぶ老けてた。パリでけっこう売れてる。……成功したと言っていいと思う。パリのマレ地区の古いアパルトマンを棟ごと買って永住する気みたい。」

……パリに永住?
じゃあ、野木さんもパリに行くのかしら。

「あ。菊地さんが呼んでる。開演時間が近いみたい。とにかく行こう。……先に、みゆちゃん達の口上だよね?」

光くんに急かされ、私たちは慌てて入場した。

「わー。S席。けっこう見やすいね。よかった。」

今回のお席は14列めの下手側。

オペラグラスを準備してると、隣の野木さんがボソッと言った。

「……来月、結婚することにしたから。急で悪いけど、式と披露宴、来てほしい。」

「え!?」

びっくりした!

てか、今、言う!?

場内の電気が消えて、隣の野木さんがどんな顔してるのか……見えない。

「しっ。後で。……おめでとう。」

光くんのどさくさ紛れの祝福。

なに?

どうなってるの?

2人は、昔、関係してたけど、その時限りで、とっくに関係ないのよね?