小夜啼鳥が愛を詠う

野木さんは、大学の卒業制作を提出した後、フランスに3ヶ月滞在してきた。

……たぶん明田先生に逢うことも目的だったんだろう。

フランスから、野木さんはさまざまなお菓子や雑貨を送ってくれた。

特にマヌカハニーのキャンディは、野木さんが向こうで風邪をひいた時に薬として役立ってくれたらしい。

間違いなく喉にイイはずだ。

<ありがとう。……あのさ、もしよければ、あれ、個人輸入してくれない?>

また!?

少し前から、椿さんは海外からお薬を取り寄せることに熱心になった。

確かに、日本で流通してるより効果のある薬を、より安く入手できる。

でも、安全性とか大丈夫なのか、すごく心配。

まあ、今のところ、酵素とか、ビタミン剤とか、プラセンタとか、ハチミツとか……そこまで深刻なお薬はないけど。

<わかった。請求書は菊地先輩でいいの?>

<うん。助かる。ありがとう。>

<どういたしまして。少しでも早く治るように、早寝して。……こうなると、今回の新公は重要じゃない役でよかったね。>

どんな役でも大切だし、一生懸命やるべきなんだけど……やっぱり主演と、脇の専科のおじさま役では、出番も台詞も比較にならないぐらい少ない。

<うん。たぶん本役に集中させてくれようとしたんだと思う。なのに、こんなことになっちゃって。くやしい。>

<大丈夫。治れば挽回できるって。東京公演もあるし。>

そう励ましたけど、椿さんが焦る気持ちがよくわかった。

やっと本公演でソロのあるいい役が回ってきたんだもんね。
ここで失敗したくないよね。

早く治りますように……。




公演が始まって二週間が過ぎた日曜日。

恒例の株式会社菊地酒類醸造の観劇バスツアーに参加した。

インターハイ予選直前なので、今回は薫くんは来なかった。

……まあ、来月の佐々木コーチ主催の観劇ご招待なんか、インターハイ予選の真っ最中で、中間テスト直前だけど。

「さくら女(じょ)~!久しぶり!」
パタパタと軽やかな足取りで野木さんが駆け寄ってきた。

「野木さん!なんか、綺麗になった!髪の色が明るい?服も、違う!かわいい!それに……なんか……ほわほわ。幸せそう?」