小夜啼鳥が愛を詠う

まぶたに、頬に、唇に……薫くんの唇が重なる。

こっそり口を小さく開けて、舌の侵入を待つ……と……

ぞわぞわする……。


「……連れて帰りたい。」

薫くんの囁きに、私もうなずいた。

「……うん。」

でも、パパが待ってる。
……私のリクエストのロコモコにアボガドをつけて……。


薫くんがかすかにほほえんだ。

「マスターによろしく。」
「……うん。」

何も言わなくても、ちゃんと伝わってるみたい。

パパの気持ちも尊重したい……。

「ありがとう。」

薫くんの背中にそう言ったら、笑顔で振り返ってくれた。

ドキドキした。

……好き。

大好き。




2週間後、みゆちゃんの初舞台公演が始まった。

スポーツ新聞が大きく書き立て、流れで、佐々木コーチの去就も取り沙汰された。

「すげーな。みゆちゃん。センターやん。……いや、弓弦羽(ゆづるは)みゆちゃん?難しい名前付けたなあ。」

早速初日から観劇して来た菊地先輩が、帰りに純喫茶マチネに寄って、そう感想を言っていた。

「すごーい。で?どうでした?椿さん。」

そう尋ねると、菊地先輩の眉間にしわが寄った。

「うーん。初日やからか……固かった。相当緊張しとったわ。声が出とらん。震えとった。たぶん、尻上がりによくなるはず。」

そうなんだ。
心配……。



帰宅したママに聞いても、あまりイイ感想じゃなかった。

「のどがね……潰れちゃったの。お稽古し過ぎたのね。」

「え!?大丈夫なの?」

「……とりあえず、病院でステロイド出してもらったけど。セリフと歌は毎日あるからねえ。完治には時間がかかるかも。」
ママはため息まじりにそうつぶやいた。


さすがに心配になったので、椿さんにメールしてみた。

<初日おめでとう。のど、大丈夫?>

すぐに返事が来た。

<やばい。がんばりすぎた。でもコレを超えたら、イイ感じに低い声になるかも。>

前向きだなあ。
感心するわ。

<無理しないで。あ。野木さんが送ってくれたマヌカハニー、まだ3箱あるからママに預ける。舐めて。>

マヌカハニーとは、ニュージーランドのマヌカという花の蜂蜜らしい。