小夜啼鳥が愛を詠う

薫くんは苦虫を噛み潰したような顔でこぼした。

「俺は強制参加。部員みんなコーチに連行される。お茶飲み会と、初舞台公演も……タダで。」

無料!?

「それって、佐々木コーチがお金出されるの?部員全員分!?」

今、何人いるの?
えーと、たぶん……40人ぐらい?

ひえー!!!

「さすが、スケールが違うねえ。元世界レベルのサッカー選手は。」

光くんが感嘆すると、薫くんが大真面目に首を横に振った。

「元ちゃうで。来年、現役に戻らはるで。Jリーグやけど。」
「え!そうなの?」

2年も戦線離脱してらっしゃるから、てっきりもう選手としては引退されるのかと思ってた……歳も歳だし。

「うん。選手、コーチを歴任していずれは監督なんねんて。……ほんまは今年から復帰するつもりやったらしいけど、俺らのために一年棒に振ってくれはった。」

薫くんはそう言ってから、ちょっと笑って付け加えた。

「いや。俺らがもっとがんばったら、コーチの指導者としての実績になるけどな。冬の選手権は一回戦負けしてしもたから。」
「……全国大会に出られるだけで、すごいことなのにね。」

かつてと比べると、レベルは確実に上がってる。
なのに、まだまだ上があって……県大会優勝は目標じゃなく通過点になってしまった。

もうすぐ始まるインターハイ予選もシード校としてスタートする。

「今度こそ、全国大会で藤やんと会うねん。」

薫くんの目標はあくまでソレらしい。

「どうせなら全国大会で対戦できるといいね。」
光くんがニコニコそう言いながら、ホットコーヒーを出してくれた。

時計を見ると、閉店時間が近づいていた。

店内には、既にお客さんもいない。

パパが帰る時に、ドアのプレートを「closed」にしておいたのだろう。


後片付けを始めた光くんをよそに、薫くんは私の手をもてあそびながらコーヒーを飲んでいた。

「みゆも、いよいよ、あの格好で足上げるんか……。」
薫くんのつぶやきに、私は笑ってしまった。

「やだ。薫くん、エッチ!もう!……てか、みゆちゃん、ずっとバトントワリングしてたんでしょ?普通にレオタードで演技してたはずよ?」

「……レオタード……。」

薫くんは憮然としてそうつぶやくと、ため息をついて言った。