小夜啼鳥が愛を詠う

「こら。薫。お行儀悪いよ。さっちゃんも疲れてるんだから。」

光くんがそうたしなめると、薫くんは私の顔を覗き込んだ。

「……ほんまや。お疲れ。」

そう言って、薫くんは体を起こして、カウンターに両肘をついた。

少しだけ淋しく感じた私は、するりと薫くんの腕に自分の手を絡めて寄り添ってみた。

薫くんはかすかにほほえんで、私の手をポンポンと軽く叩くように撫でてくれた。

「薫くんも。お疲れさま。」

ほほえみあって、いたわり合う。

それだけで、1日の疲弊した心と身体がリセットできる。

幸せだなあ……と、その日を終えられる。

「お母さん、桜子のこと、いじめとらん?」
いつものように、ストローを使わずにアイスコーヒーをワイルドに飲みながら、薫くんがそう尋ねた。

「あーちゃんが、そんなことするわけないだろ。」

ボソッと光くんが抗議したのに私はうなずいた。

「いじめるなんて、とんでもない。過分に可愛がってもらってる。……てか、ちょっと待遇よすぎ?期待されすぎ?」

「当たり前や。桜子をお茶くみで終わらせるわけない。……期待が大きい分、厳しく感じるかもしれんけど。」

薫くんは平然とそう言った。

「……うん。社長がコーヒー入れてくださった。」

苦笑してそう言ったら、光くんがくすくす笑った。

「まあ、お父さんは、何でもできるヒトだから。いいんじゃない?甘えておけば。」

確かに、別荘でもご飯を作って下さったこともあったけど、いつも普通においしかったわ。

「……でもさすがに会社では恐縮するわ。」

そう嘆いたら、薫くんが私の頭を撫でてくれた。

ただそれだけのことで、心が凪いだ。


「せや。コーチから伝言。みゆのお茶飲み会?来てほしいって。」

薫くんがそう言うと、光くんが首を傾げた。

「お茶会じゃないの?……お茶飲み会?椿さんは、お茶会だよね?」
「うん。ややこしいけど。会のない下級生は、お茶会じゃなくてお茶飲み会って言うみたい。……てか、みゆちゃん、研1なのにお茶飲み会するんや。行く行く。薫くんも、一緒に行く?」

私設ファンクラブのことを「会」と略す。

いろいろ専門用語があってややこしいけど、さすがに、椿さんとママの影響で、だいたいわかっているつもり。