小夜啼鳥が愛を詠う

「大丈夫。がんばる。」

詳しいことは言えない。

私は笑顔でそう答えて、カウンターの中のパパに挨拶した。

「ただいま。パパ。……ママ、今夜も遅いの?夕食どうする?」
「そうだなあ。外食気分じゃないし、さっちゃんも疲れてるみたいだし、今日は俺が作ろうかな。」

わ!

「うれしい!あれ、作って。ロコモコ。アボカドも付けてね。」

私がそうおねだりすると、パパは相好を崩した。

ママは、今、毎日、日付が変わってからしか帰宅できてない。

椿さんのお稽古が毎夜遅くて……送り迎えをするママも必然的に遅くなってしまってる。

見かねたパパが、劇場の近くにマンションを買ってくれたので、そこでママはお昼寝もできる……はずなのだけど、どうも椿さんの私設ファンクラブの規模がどんどん大きくなってきて、忙しいみたい。

次の公演で、椿さんは短いけどソロもある重要な役をもらった。

菊地先輩をはじめとする椿さん後援会の面々は大喜びで盛り上がってるけど、当の本人はなかなか思うように上達できてないらしく必死でがんばっているらしい。

今度の公演は、みゆちゃんたちも初舞台を迎えるし私も楽しみなんだけど……椿さんの切羽詰まった状況をママから聞くと……。

「今夜も遅いのかな。」

椿さんの心配をしたつもりだったけど、パパはママのことで頭がいっぱいみたい。

「そうだな。……当分、朝食も俺が作ろっかな。」
と、ママを気遣っているようだ。

「マスター。じゃあ、先に上がってください。あとは、僕が。」

光くんがそう言ってくれると、パパはちょっと逡巡して、それからうなずいた。

「わかった。ありがとう。さっちゃん。買い物して先に帰って、メシの準備してる。閉店時間になったらちゃんと帰ってくるんだよ。」

帰宅が遅くならないようにしっかり釘を刺されてしまった。



程なく、薫くんがやってきた。

今日もボロボロ。
佐々木コーチにたっぷりしごかれてきたようだ。

「アイスコーヒー。そのあとで、ホット。」

薫くんは、ぶっきらぼうに光くんにそう言ってから、まるで肘掛けのように、私の肩をぐいと引き寄せてもたれた。