小夜啼鳥が愛を詠う

「うん。純喫茶マチネの先代さん……マスターのおじいさんは、ずっとうちを通りして仕入れてらしたわ。マスターの代になって……というより、会長がマスターに直接輸入を勧めて途切れたけど。」

「ブレンドはプロに任せるとして、ここでは品質チェックも兼ねて豆単体の味を楽しんで。」

あおいさんはそう言って、カップに口を付けた。



その日1日かかっても、整理は終わらなかった。

「スピードより、中身の理解と検討重視やからかまへんよ。あおいのほうは?」
終業時間間際に社長が尋ねた。

「うん。週末までには終わる。けど、もうちょっと、じっくり調べたい。結論は、待って。」

あおいさんがそう言うと、社長はうなずいた。

「OK。ほな、先方には?来月?」
「……そうね。ゴールデンウイーク明けにでも。」
「ついでに葵祭でも観に行くか?」

社長の誘いに、あおいさんはうれしそうにうなずいた。



「京都の会社と新しく事業を始めるんですか?」

給湯室へ向かいながらあおいさんにそう聞いてみた。

ら、しーっ!と、ちょっと怖い顔で注意された。

え?
ダメなの?

びっくりして、思わず口をつぐんだ。

あおいさんは、すぐに表情を緩めてくれたけど、穏やかに、噛んで含めるように言った。

「守秘義務ってわけじゃないけどね、社長室で知り得たことは社長室を一歩出たら口にしちゃダメ。廊下でもトイレでも給湯室でも、ダメ。友達や家族はもちろん、社内の年長者や上司、役員に対しても漏らさんといてね。……薫にも、会長にも。」

……そんなに厳格なの?

てゆーか、社長の頼之さんとあおいさんしか知らない極秘事項を、入社したての私には共有してくれるんだ……。

2人の信頼と愛情に、私は胸と……目頭が熱くなった。

「はい。わかりました。二度といたしません。申し訳ありませんでした。」
心からそう言って頭を下げた。

「や。今、はじめて言ったんだから、謝らんくていいよ。次やったら怒るかもしれんけど、最初はしょうがないし。……一つ一つ覚えてってくれたらいいから。」
あおいさんは慌ててそうとりなしてくれた。

「ありがとうございます。ご指導よろしくお願いします。」

笑顔で、そう言えた。




「おかえり。さっちゃん。……なんか、疲れてない?大丈夫?」

会社の帰りに純喫茶マチネに寄ると、光くんが心配そうにいたわってくれた。