……てか、小門さんもダンディーで素敵だけど……パパのほうがかっこいいのに、何で玲子さんはパパには恋しなかったのかしら。

「成之は優しいからね。離婚して、私と子供を養う決心をしたの。……あの時の私は、成之にすがるしかなかったしね……。」
玲子さんの言葉に、陶酔でも言い訳でもなく、後悔の色が混じった。

その時の選択を悔いているんだ……。

「でも新妻も妊娠したの。当然、成之の子よ。まあ、結婚したんだから当たり前よね。……もともと成之の能力を見込んで婿にと臨んだ社長、つまり舅が、どうしても離婚と退社だけはやめてくれって、うちに来て成之に泣いて頼んだの。私にもね。子供が成長して無事に会社を継ぐまで離婚を待ってほしいって。」

あ。

今度は、怒りの色が混じった。

怒りの矛先は、奥さん?
社長?
成之さん?
それとも……玲子さん自身?

「新築マンションと月々のお手当までくださるって仰ってね。それは断ったわよ。成之がいてくれるなら、何もいらないって本気で思ってたし。……成之は結局、退社できなかったわ。成之の書いた離婚届も、社長が預かって、それっきり。その社長もとっくに鬼籍だし。」

「今も?……子供って、光くんのパパの頼之さんでしょ?入社したよ?もう、離婚できるんでしょ?」
私は、泣きながら玲子さんにそう聞いた。

玲子さんは、遠い目をした。
「さあ。どうかな。」

……どういう意味?

「ほら、さっちゃん。あんまり泣くと、ママが心配するわ。もう、泣かないの。……チャンスは何度もあったのよね。成之から離れるチャンス。成之が私から解放されるチャンス。……でも、私の弱さと成之の優しさが邪魔してきたのね。おかげで、3人とも、すっかり初恋をこじらせちゃったわよ。」

3人?

玲子さんの成之さんへの初恋はわかるとして……あと2人って……

「成之さんは玲子さんとつき合ってたのに奥さんが初恋なの?奥さんも?成之さんが初恋?」

納得いかない。
けど、そういうこと?

玲子さんは悲しそうに頷いた。
「不器用で、意固地で、優柔不断な、3人よね。」

私は同意も否定もできなかった。

何も知らないから。

玲子さんや成之さんとは、昔から一緒に過ごすこともあった。
でも小さい頃は2人は普通に夫婦だと思ってたし……実は内縁関係だったと知ってからも、詳しいことは聞いたことがなかった。

玲子さんのワガママや毒舌を、成之さんは、いつもやんわりたしなめたり、受けいれてあげてて……2人はうまくいってると思ってた。

いっぽうで、光くんのおばあちゃんはいつも笑顔で優しくて……。

「後生大事に初恋にこだわって、馬鹿みたい。」

玲子さんの自嘲が、胸に突き刺さった。