「古城桜子くん。秘書室。」

2週間の研修期間が終わった翌日の朝礼で、久々に出社された会長の成之さんが新入社員の配属先を順に読み上げた。

周囲がざわついたけれど、私にはその意味がわからない。

……てか、ざわざわしているのは、15人の新入社員じゃなくて……ずっといらっしゃる社員さんたち?

よくわからないままに、社長の頼之さんの挨拶で朝礼が終わり、私達新入社員は、それぞれの配属先へと散らばった。

秘書室は……

「さっちゃん!こっちこっち!」

ひらひらと手を振って私を呼ぶのは、光くんママ……いや、会社では小門さん?小門先輩?……何て呼べばいいかしら。

「すみません。お迎えに来ていただいて。あの……秘書室はどちらになりますか?社内案内図で見つけられなかったんですけど……。」

そう尋ねると、光くんママは頭をかいた。

「あー。ごめん。案内図には、ないわ。……てか、秘書室って部屋もないなあ。」
「え!?」

びっくりして、つい、声をあげてしまった。

「あの……でも、私、秘書室勤務って……。」
「うん。あのね、今まで私が秘書的なことしとったけど、秘書って部署も役職もつけとらんくて。今年から、正式に秘書を設けることにしたの。せっかくさっちゃんが来てくれるしね。」

そうだったんだ……。

それで、みんな、ざわついてたのね。
急に秘書室ができて、びっくりしたのだろう。

てか、社員数150人って、けっこうおっきい会社だと思うけど……上場もしてないし、家族経営の延長みたい。


「あのぉ、何てお呼びしたらいいですか?小門秘書室長?」

廊下を歩きながらそう尋ねると、光くんママは顔をしかめた。

「呼びづらぁ。そんなかしこまらんでええよ。どうせ、会長のお義父さんは『あおいちゃん』、社長の頼之さんは『あおい』って呼んでるし。」

……ほんとに家族経営だ。

てか、もしかして、私もこのまま「さっちゃん」なのかな。

「……でも、私が『おかあさん』とか『ママ』とお呼びするわけにはいかないですよね?……やっぱりここは、室長と……。」

「『あおいさん』!」

ずいっと顔を近づけて、光くんママはそう呼ぶように言った。

「……あおいさん……って、呼んじゃっていいんですか?」