私がイジメられてると思って、飛んできてくれた?

びっくりしたけど……うれしい……。

「やー、この程度で泣かんやろ。なあ?自分、見た目より根性座っとるやろ?」

佐々木コーチにそう言われて、私は苦笑した。

でも薫くんは、私をなかなか手放さず、佐々木コーチを睨んでいた。

「薫くん。大丈夫。ありがとう。……それよりさっきね、教育実習で担当してくださった先生にバラしちゃった。薫くんとつきあってるって。……薫くん、何か言われるかも。相談せず、勝手にごめんね。」

「な?しっかりしとーやろ?」
なぜか、佐々木コーチが薫くんにそう言った。

薫くんは、佐々木コーチから私をかばうように自分の背後に隠してから、私の顔を覗き込んだ。

「ゆーたん?桜子が?……そうかぁ。ありがと。めちゃうれしいわ。」

「……うれしいの?」

「そりゃそやろ。クソガキが美人の女子大生と背伸びしてつきあっとるんや。自慢して歩きたい思うで。……今は、な。」
佐々木コーチがイケズな口調でそう言った。

「今は?」
コーチの言葉尻を、そのまま薫くんに投げかける。

薫くんは、首を横に振った。
「ずっと。俺にとっては、桜子が唯一無二や。俺が光に勝てるんは、それだけやから。神仏より、家族より、俺自身より、桜子が大事や。」

……ちょっと、びっくりした。

薫くん、光くんに対してコンプレックスもライバル心もあるんだ。

「私が……太ったり、おばあちゃんになっても?……私、薫くんより早く老けるわよ?」

自虐的なようだけど、事実だ。
5つも年上なんだから。

「なんや?珍しいな。ごねてるん?……アホやな。かわいい。何、心配することあるんや?俺が桜子に飽きるとか?他の女に目が行くとか?……ないわ。」

薫くんはそう言って、私の目をのぞき込んだ。

綺麗な瞳に、泣きそうな私が映っていた。

「ほら、すぐ泣くやん。心配でほっとけるわけない。四六時中、俺のそばにいてほしい。俺がすぐに涙を拭いてやれるように。」

そう言って、薫くんは私の目尻をゆびで拭こうとして……その手があまり綺麗な状態じゃないことに気づいたようだ。

私は慌てて、ハンカチをさしだそうとした。

けど、薫くんはちょっと笑って……そっと顔を近づけた。

まぶたに、大好きな薫くんの唇がそっと触れた。

遠くから、甲高い金切り声があがった。