玲子さんは淡々と語ってるのに、私は泣きそうになった。

「ひどい……。玲子さんがいるのに……。」

ため息をついてから、玲子さんは言った。
「ほんと、ひどいよね。でもね、気づいちゃったの。もう何年も仲良くつき合ってきたけれど……成之は優しいから私の気持ちを受け入れてくれてただけで……私に恋してたわけではないって。」

何となく、ギクリとした。
私にも、憶えのあるシチュエーションかもしれない。

「成之は、責任感の強いヒトだから、苦しんだわ。……だから、私から別れを告げたの。成之にとって最高の縁談だし、将来のために、って……その時は、本当にそう思って別れたのよ。」

うん。
玲子さんは、良くも悪くもまっすぐなヒトだ。
計算で駆け引きするヒトじゃない。

……ただ、激しすぎて……自殺未遂や、心中未遂を何度も起こしたことは、うっすら聞いたことがある。

「じゃあ、玲子さんと本当にちゃんと別れて、成之さんは社長令嬢と結婚したの?……それとも別れ切れなくて、裏ではずるずる続いてたの?」
今の状態を鑑みて、私はそう聞いた。

玲子さんは苦笑した。
「別れたわよ。ちゃんと。すごくつらかったわ。でも、しばらくして、私、成之の子を身ごもってたことがわかってね、生きる希望を得たの。」

え!
このタイミングで妊娠?
それって、普通は……中絶しないの?

「両親もね、最初は出産に反対したけど、結局は折れてくれてね……知人のいない土地に家族で引っ越すことにしたの。もちろん成之に何も知らせずに、ね。」

いつの間にか私の目に涙がこみ上げてきた。

悲しいよ……玲子さん。
そんなの、悲しい。

「でも、引っ越しの直前に、両親が交通事故で亡くなったの。2人とも。一気に。……さすがにあれは堪えたな。お腹の子には悪いけど、後追い自殺するしかないな、って……。」

ダメだ。

涙がポロポロとこぼれ落ち始めた。

無理。
たぶん、私も無理だ。
とても生きていけると思えない。

「お葬式はひっそりとしたんだけど、章(あきら)のお母さんとうちの母、仲良しだったからね……結局、おばちゃんから、章を経て、成之にバレちゃったの。私の妊娠。」

突然出てきたパパの名前にびっくりした。

けど、そうよね。
もともとは玲子さんはパパの幼なじみだったんだもん。