小夜啼鳥が愛を詠う

応援席は雨合羽でがんばる保護者や生徒の熱気が蒸気になって上がって見えるほどだった。

「さっちゃんはダメ。濡れないところに移動して。……光、一緒についてたげて。」

光くんママにそう指示されて、私は今回も屋根の下に移動した。

「……あれ?いつもと違う?」

フィールドに出てきた選手を眺めて、光くんが首を傾げた。

「え?……あ……ほんとだ……。」

ミッドフィルダーの3年生が違う。

今年の司令塔だった選手の位置に、別の3年生が入ってるようだ。

「ちょっと聞いてくる。」

光くんが立ち上がって、団体席へ事情を聞いて戻って来た。

「ベンチには居るみたい。……少し前に痛めた足首を、一昨日の準決勝で悪化させてしまったんだって。」
「じゃあ、今日は出場できないの?」

ドキドキする。

それで、夕べ、薫くんは不安そうだったんだ……。

確か、彼も1年生の時からレギュラーに抜擢されていたはず。
未来くん同様、既に大学からの引き合いもあると聞いていたけれど……足首……か。

将来のある身なら無理させたくないだろう。


でも……彼の存在は大きかったみたい。

いつもと違う。

明らかに、薫くんにボールが回ってこない……。

もちろん意地悪されてるわけではなく、単に真ん中がボールを支配できてない。

そうこうするうちに、相手チームが1点先取してしまった。


「……イライラしてるね~。薫。」
光くんが苦笑まじりにそうつぶやいた。

「……うん。……どうするんだろう。」

どうしようもないかもしれない。

先輩が自分の役割を果たせないからと言って、後輩の薫くんが分を越えるわけにもいかないだろう……。

「ポジション変更してくれないかなぁ。」
「ん?薫が自由に動けるように、ってこと?……そうはならないだろうねえ。」

光くんの言う通りだった。

ハーフタイムの後、足を痛めた本来のミッドフィルダーがピッチに戻ってきた。

普段に比べると、彼はほとんど動いてないけれど、ボールの流れは変わったように思う。

やっと薫くん達にもボールが回り始めた。


終了間際にようやく、薫くんがシュートを放つことができた。

ボールはキーパーの飛んだ方向とは真逆の空間に突き刺さった。

同点に追いついた!