小夜啼鳥が愛を詠う

ママはそう言って、私の髪をそっと整えてくれた。

「……薫くん、優しかった?」

何を聞かれたのか、一瞬理解できなかった。

……普通、娘にそんなこと、聞く?

私はびっくりして、ママの顔を見た。

ママは肩をすくめた。
「やだ、睨まないでよ。だって、心配なんだもん。熱あるし。出血、止まってなさそうだし。」

「……う。心配かけて、ごめん。でも、薫くん、優しいよ?」

当たり障りなくそう返事した……つもりだったんだけど、一生懸命だった裸の薫くんを思い出して、私は照れた。

「そう。まあ、幸せなら、よかった。とりあえず、今日はゆっくりおやすみなさい。」
そう言って、ママはベッドから立ち上がり、部屋を出ようとした。

「ママは!?」
思わず、声を張ってそう尋ねた。

ママが怪訝そうに振り返る。
「なぁに?」

「……ママは、幸せじゃなかったの?……初めての時……。」

勢いで引き止めたけど、ちょっと後悔した。
相手が誰かもわからないのに、私……何で、聞いちゃったんだろう。

ドキドキしてると、ママは苦笑した。
「状況は、さっちゃんほどには恵まれてなかったけれど、ずーっと大好きだった章(あきら)さんにやっと振り向いてもらえて、この上なく幸せだったわ。」

……章さんってことは……

「相手は、パパだったの?」
なんとなく、拍子抜けした。

「そうよ。中学生の時、親が離婚して……母と2人でパパのマンションに引っ越して来たの。一目惚れよ。初恋よ。……子供過ぎて、長い間、相手にしてもらえなかったけど。」

「……そうなんだ。」

……でも、ママはパパ以外のヒトとつきあって……私を産んだのよね?
もやもやしたけど、それ以上は聞けなかった。

いつまでも続きを聞こうとしない私に、ママはちょっとほほえんで、部屋を出て行った。



熱はすぐに下がった。
おとなしくしてたからか出血も止まったけれど、何となく違和感が続いていた。

薫くんは、私の身体を慮って、その後しばらく我慢してくれていたようだ。

「リーグ戦始まって、時間取れんで悪いな。」
と、私が気に病まないように、まるで自分の都合のように言ってくれていた。

その気持ちがうれしかった。
ほんと、幸せだぁ……。