小夜啼鳥が愛を詠う

そう言ってみたけど、薫くんが、私の表情や感情を少しも見逃さないようにじっと見てるのがわかって……私は取り繕うことも、ごまかすこともやめた。
そして、今まで言葉にしたことすらなかったもやもやを口にした。

「ずっと、関係ないと思ってたの。パパに悪い気もしたし、知りたいとすら思わないように封印してたの。……でも京都に通ってると……だんだんもやもやしてきて……。光くんも、何か知ってて黙ってるような気がしてしょうがないし。それにね、どこの桜園だか思い出せないんだけど……すごく綺麗な桜の園……あれはいったい……。」

すると薫くんは、私を抱き寄せた。

腕にかき抱いて、ゆらゆら揺れながら薫くんは言った。

「独りで抱えてるから、もやもやするし、イライラするんや。……桜子がほんまに知りたいんやったら、聞いてみ?……お義母さんも、光も、普通に教えてくれるやろ。俺も一緒に聞いたろか?」
「……うん。そうね。……今は、いい。……ありがとう。」

確かに、薫くんに愚痴っただけで嘘みたいに楽になった。


薫くんは、私の頭を撫でた。

「桜子はみずがめ座やから、良くも悪くも直情的じゃないんやろな。」
「う……昔から、鈍いってよく言われた……。」
「鈍い?……いや、心が広いんやろ。でも、マイナス感情はその都度、小出しにしてくれたらいいで?特に俺には。」

そう言って、薫くんは私の額や頬に唇を這わせてキスを繰り返した。

そーっとそーっと指が、胸元をためらいがちに行き来してる。

くすぐったいけど、気持ちいい……。


「……あかんわ。」

薫くんはそう嘆いて私から離れると、くるりと背を向けて円周率を唱えて、帰って行った。




一週間後。
未来くんたち三年生が引退した。

たぶん未来くんは推薦で大学合格が確定したら、選手権に参加するだろうけれど、とりあえずは一区切り。


部活がお盆休みに入り、薫くんと私は約束の日を迎えた。

朝から緊張してる私に、私以上に緊張してるパパが言った。
「さっちゃん……。そのぉ……、嫌なことがあったら、連絡しなさい。迎えに行くから。」

「……章さん……往生際悪すぎ。もう。」
ママがパパをたしなめた。


10時頃、薫くんが迎えに来てくれた。
……こっちも緊張してるみたい。

「はい。お弁当。夕食と明日の朝食は光くんに車で運んでもらうわね。」

ママがそう言って、薫くんに紙袋を手渡した。