小夜啼鳥が愛を詠う

ボールは綺麗にゴールに刺さった。

キーパーは微塵も動かなかった。

歓声に沸く応援席。

チームのみんなも声をあげる中、薫くんは芝を蹴った。

え!?

審判のホイッスルがけたたましく鳴った。

得点ではなく、反則を告げる笛だった。

オフサイド。

……相手チームの罠に、みごとにハマってしまったらしい。

せっかくのラストチャンスを棒に振り、チームは激しく動揺し、なすすべもなく試合終了。

薫くんの高校一年生のインターハイが終わった。

誰も、ここまでよくがんばった!と誉めなかったし、選手も満足してなかった。
ほとんどの選手が、くやし涙に暮れていた。

薫くんに至っては顔面蒼白で震えていた。

慣れないポジションで、唯一の得点を、それも尊敬してやまない未来くんからのボールを決めたヒーローなのに……同時に、オフサイドトラップにまんまと引っ掛かったピエロになってしまった薫くん。




「キーパーが薄笑いしとるんが見えたのに……俺はアホや……。」
翌朝、学校に帰り着いた薫くんは、帰宅の前に我が家に来てそう述懐した。

「……いや。よく頑張ったよ。お疲れさん。」
パパはそうねぎらうと、表情を改めた。

「聞いたよ。賭けの話。本気じゃないよね?……もし本気なら、薫くん、桜子はうちの一人娘だから、そう簡単に同棲とか、ましてや三世帯同居とか!許さんから。……そもそも、順番が違うだろ。」

「……よく言うわ。」

ママが小声でぼやいていたけれど、パパは真剣そのもの。

薫くんは、私を見て、ちょっと微笑んでから、パパに向き直った。
「……本気や。でもマスターと波風立てて桜子を不安にさせたくないから、賭けに負けてよかったと思うことにした。……順番って、どうしたらいい?まず、何からすればいい?」

「そうねえ。まずは、敬語から?」

ママが冗談っぽくそう言うと、薫くんはキョトンとしていた。

……あ、思い出した。
薫くん、ちっちゃい頃、仲良しには敬語を使わなくていいし、呼び捨てでいいって思ってなかった?

いや、でも、さすかにサッカー部で上下関係を学んでるだろうし、未来くんには敬意込めてお話してるよね?

私がじっと薫くんを見つめると、薫くんはやっと得心したらしくうなずいた。