小夜啼鳥が愛を詠う

『未来さんが、明日、俺にフォワードやれ、って。……ちゃんとフォワードの控えの先輩、何人もいるのに……。』

珍しい。
薫くんが気弱だ。
いつも、どんな時も、誰に対しても強気で偉そうな薫くんが、すっかり動揺してる。

……てか、薫くんにとって未来さんって、憧れのお兄ちゃんみたいな存在なのかな。
実の兄の光くんといるときより、ずっと普通の弟キャラになってる気がする。

「じゃあ、そのフォワードの控えの先輩のどなたかが、薫くんの代わりにディフェンスするの?」

そう尋ねると、薫くんは息をついた。

『いや。ディフェンスはディフェンスで、補欠がちゃんとおる。……せやし、フォワードの控えの先輩らは……出場できんことになる……。』
「あー。それは……いらない恨みを買っちゃうね……。」

私がそう言ったら、薫くんはちょっと笑った。

『それ以前の問題や……自信がないねん。今年最後の試合になるかもしれん先輩らを差し置いて、俺が大事なポジションに行くのに……情けないことに、自信がない。こんな気持ちになると思わんかった。』

……びっくりした。
確かに、薫くんらしくない。

むしろ、やる気メラメラになるタイプのはずなんだけど……。

あ、そっか。

「これで負けたら、未来さん達3年生は、引退なの?」
『……うん。』

薫くんの声、子供みたい。

……そういうことか。

慣れないポジションへの不安より、未来さんと同じチームで戦える最後のゲームになってしまうかもしれない不安でいっぱいなんじゃないかな。

ちょっと混乱してるのかもしれない。

「じゃあ……ラッキーやったね。未来さんからのボールでシュート決められたら、一生の思い出になるね。」
私は、今の薫くんと真逆のことを敢えて言ってみた。

『……ラッキー……て……。』
薫くんは絶句した。

……あ……怪我された3年生のことを考えると、これはまずかったかしら。

でももう止まらない。
私はなるべく脳天気に言ってみた。

「私、観たい!薫くんの蹴ったボールがゴールに突き刺さるところ。」
『……。』

薫くんは、しばし沈黙した。

そして、息をついた。

『しゃーれへんな。』

お?
やる気になってくれたかな?

『桜子。賭けへん?』
唐突に薫くんがそう誘ってきた。

「……薫くんが得点あげるかどうか?……いいよ。何でもする。」