小夜啼鳥が愛を詠う

「うん。ありがとう。もう大丈夫。」

私の返事を聞きながら、みゆちゃんの視線は私の隣の藤巻くんに移動した。

「……あ……。……セイショウ?」

みゆちゃんは、藤巻くんの名前の「清昇」を有職読みで覚えているようだ。

藤巻くんはうれしそうにうなずいた。
「覚えてくれてたんや。久しぶり。みゆちゃん、綺麗になったわ。……いや、昔からかわいかったけど……。」

……あ。
何となく、思い出した。

藤巻くん、みゆちゃんに惹かれてたよね?
今も……気持ち、残ってるのかな。

「ありがと。セイショウもカッコいいよ?」

みゆちゃんにそう言われて、藤巻くんは言葉を失ってしまった。

頬が赤い。
……まだ、好きなのか……。

「さっちゃん。抱えてても吸収されないよ。こまめに飲まないと。」
いつの間にかそばに光くんがいて、私からポカリを取り上げてキャップを開けてくれた。

「はい。どうぞ……と言いたいけど、これ、さっちゃんにはちょっと大きすぎるね。……待ってて。」

光くんはそう言って一旦団体応援席に戻り、紙コップを持ってきてくれた。

とぽとぽとポカリを紙コップに注いで手渡してくれた光くんにお礼を言って、受け取った。

「ほら、持ってないで。飲んで。……僕らもね、今日はホテル取れたんだ。午前のゲームで負けたチームの父兄がみんなキャンセルして帰るみたい。……シード校だしまさか負けるとは思ってなかったんだろうね。」

……あー。

「じゃあ、その金星をあげたダークホースと、明日、試合するの?」
「今日勝てたら、ね。」

光くんはそう言ったけど、勝てると見込んでホテルを抑えたのだろう。

……実際、今日も薫くんたちのチームは終始リードして得点を重ねた。
3年生のフォワードの子が、相手のヤケクソのような過剰なタックルで負傷してしまったけれど、それ以外は安心して観てられた。

「桜子ー!藤やーん!後でなーっ!」
宿へと帰るバスに乗り込む間際に、薫くんはそう叫んで意気揚々と帰って行った。

でも、その夜、薫くんは来なかった。



『……桜子。どうしよう。』
夜中に、弱々しい小声で薫くんが電話を寄越した。

「どうしたの?」

どうして来なかったの?待ってたのに……と、言える雰囲気じゃなかった。