小夜啼鳥が愛を詠う

「危ないよ、さっちゃん。……はいはいはい。これで見える?」
光くんは、私にピッチがよく見えるように身体の向きを変えてくれた。

「もう!試合より身体のほうが大事でしょ!飲んで!」
ママが強引にポカリを押し付けた。

私は渋々、光くんの首から片手だけはずして、ペットボトルを受け取った。
冷たくて、持ってるだけで気持ちよかった。

「薫、気づいたみたい。見てる見てる。睨まれてる。」
光くんの言うとおり、薫くんは、こっちをガン見していた。

……やばい?
今さら誤解も嫉妬もないと思うんだけど……。

「薫くーん!」
ママはそう叫ぶと、両手を合わせて枕のように耳元にあてがって首を傾げて見せた。

……眠るゼスチャー?
しんどいってこと?

薫くんの表情が、変わった。
聞こえないけど、たぶん舌打ちされた!
そして、薫くんは客席後方を指差した。

「早く行け、って言ってるねえ、たぶん。……さっちゃん、気が済んだ?行くよ?」
光くんがそう言って、きびすを返した。

泣きそうなのに、涙が出てこない。
……脱水症状だと、泣けないんだ……。

私は渋々、ペットボトルを口にした。
腹痛も頭痛も吐き気もするのに、身体が水分を欲してるのだろう。
一気に飲み干せてしまった。


救護室で、ママに2本めのポカリを渡された。

「一応ラクテックぐらいならありますが。」

どこかの学校の養護教諭らしき人にママが交渉した結果、私は点滴を受けることになった。

「試合、もう始まったかな。」

涙がやっと溢れてきた。
水分チャージできてきたみたい。

そういえば、いつの間にか腹痛は消えていたし、頭痛もかなり楽かもしれない。
……本当に、ただの脱水症状だったんだ。

「始まったねえ。……大丈夫だよ。対戦校、そんなに強くないから。勝てるよ。……でも、さっちゃん、今日またバスで帰るのも、バスに泊まるのも無理じゃない?」
光くんはそう言って、ママを見た。

「そうねえ。私と新幹線で帰ってもいいけど……ちゃんとホテルか旅館に泊まって、ゆっくり休んだほうよさそうねえ。んー、ちょっと相談してくる。」

ママはそう言って、救護室を出て行った。

てっきりパパと電話で相談するんだと思ったんだけど、ママが相談した相手は玲子さんだった。

点滴が終わると、嘘みたいに楽になった。
……こっそりスピードを早めたので45分ほどで終われた。