小夜啼鳥が愛を詠う

「さっちゃん、あかんわ。汗、出てへん。……脱水症状なっとらん?」
光くんママがそう言って、私を団扇で扇いでくれた。

「……汗……ほんとだ……。」

指摘されて初めて気づいた。

気持ち悪くて朝食に配布されたパンも牛乳も口にできなかった。
バスの中でも何も飲んでない。

昨日の夕方、お味噌汁を飲んだきり?

「光。ポカリ買うてこい。さっちゃん、救護室行こう。エアコン効いてるとこ。」

光くんは、パパの頼之さんの指示にうなずいて
「一緒に行くよ。さっちゃん、おいで。」
と、私の両手を取って、ゆっくり立たせてくれた。

でも、数段降りただけでグラッと世界が回った。

立ってられない……。
無理。

へにゃりと座りこむ私を、慌てて光くんが抱き上げてくれた。

……あ……なんか……これ、久しぶりかも。
光くんの香りだ……。

パパのお店を手伝うようになって、光くんは以前よりもかなり控えめにしか香りを身にまとわなくなってしまった。
もう手もつながなくなったし、意識しなくなったけど……コレ。

甘い甘いバニラのような香りに、わずかな爽やかな柑橘とバジル系スパイス、それからムスク。
優しいうっとりする、光くんの香り。

……そう言えば、無意識にバスの中でもこの香りに安心感を覚えていたかもしれない……身体はしんどかったはずなんだけどね。

「さっちゃん!ポカリ!」
気がついたら、ママが私達を追いかけてきて、キャップをあけたペットボトルを差し出した。

「飲みたくない……。何か、お腹痛い……。」

さっきまで気持ち悪かっただけなのに、気がついたら腹部に激しい痛み。
ダメ……しんどい……。

「だから!それ、完全に脱水症状だから!早く飲んで!飲んだら楽になるから!点滴打ったら一発なんだけど……あるかな?私の時はなかったけど……。」

そう言えば、ママはかつて、インターハイのサッカー場でお仕事したことがあったんだっけ。
……玲子さんに逢いたかっただけじゃなく、懐かしさもあったのかな。


突如大きな歓声が上がった。

選手がピッチに出てきたみたい。

せっかくゲームが始まるのに……薫くんが出てくるのに……。

私は光くんの首に腕を回して、少し上半身を伸ばして様子を見ようとした。