小夜啼鳥が愛を詠う

インターハイの開会式の後、薫くんがうれしそうに電話を寄越した。

『もしもし?桜子?……代わるわ!』

え?
代わる?

受話器の向こうでゴソゴソと音がして、次に聞こえてきたのは
『もしもし?桜子さん?ご無沙汰してます。藤巻です。』

藤巻くん!

「え?どうしたの?あれ?藤巻くんの高校、インターハイ出場……今年はダメだったよね?」

藤巻くんは京都のサッカー名門校に通っている。
確か、去年はインターハイに出場してたけど、今年は準決勝で敗れたはず。

『はい。でも、薫の応援に来てしまいました。……てゆーのは、ちょっと語弊かまあるかな。父の出張に母とくっついて来たんです。薫たちが勝ち残ってる間はココに残るつもりです。桜子さんも来はるんですよね?お会いできるんを楽しみにしてます。』

何か、藤巻くんの言葉が思いっきり京都のイントネーションに変わってる気がする。
じゃらじゃらした柔らかい響きが、穏やかな藤巻くんによく似合っていた。

「そっか。藤巻くんとは観客席で逢えるね。……薫くんとは無理だろうけど。私も、逢えるの楽しみにしてるね。」

そう言ったら、またガサガサと音がして、薫くんがムキになって吠えた。

『無理ちゃう!いや、無理してもそっち行くから!』

……はは。
無理しないでね。



その夜、私は小門家一行に混じって、高校からの応援バスに乗車した。

最近の夜行バスは座席が少なくて快適らしい……んだけど、今回のバスはそういうわけにはいかない。
真ん中の通路の左右に普通にくっついた2席の狭いシート。

さすがに通路の補助席は空けてくれていたけれど、それでも窮屈この上ない。

息が詰まるせいか、何だか気持ち悪くて、車酔いしそう。

もちろんシートを倒すことも憚られるため、ほぼ垂直に座ったままで眠らなければいけなかった。

……当たり前なんだろうけど、おじいちゃんとおばあちゃん、光くんパパとママが並んで座るので、私は光くんと。

「さっちゃん。しんどそう。僕にもたれていいよ?」

光くんはそう言ってくれたけど、つらいのはみんな一緒だから……と、私はなるべくまっすぐお行儀よく座って眠ろうとした。

けど、途中でいくたび目覚めても、光くんを枕にしちゃってたみたい。

ごめん……。


寝不足のひどい顔で会場に到着。

「あらあら。一晩でやつれちゃったわねえ。大丈夫?顔色悪いわよ。目の下にクマ。」
涼しい顔でママが観客席の日陰に座っていた。