小夜啼鳥が愛を詠う

「……桜子、まだ熱い。しんどい?」
薫くんはそう言うと、少し腕の力を緩めて私の顔を覗き込んだ。

すぐ目の前に薫くんのお顔。
まだ興奮状態なのかな……瞳がギラギラしてる。

「ううん。ふわふわしてる。夢みたい。でも悪夢の続きじゃなくて、幸せな夢……。大好き。薫くん。」

そう言ったら、薫くんの瞳が柔らかい光を帯びた。
うれしくて、ふにゃ~と私の頬がゆるんだ。

自分の存在意義を感じる……。
尖った薫くんに優しい穏やかな時間をあげられることが、ただただ幸せ。

でも、唇が近づいてきたときには、慌てて顔を背けた。

「何で?」
不満そうな薫くん。

「風邪、うつる。……明日からもお休みとかないでしょ?練習でしょ?」

そう言ったけど、薫くんは胸を張った。

「うつるか!それ、ウィルス性の風邪じゃないやろ。……雨に濡れてまで応援せんでいいで?桜子の身体のほうが大事。」

……だって……だって、だってだって……

「薫くんたちが雨の中がんばってるのに……何にもできないけど、気持ちぐらい一緒に戦っていたいもん。」

そう言ったら、薫くんの顔がくしゃっとゆがんで、私は勢いよく強く抱きしめられた。

ぎゅーっと……苦しいぐらい強く、ぎゅーっと。

「何もできんことない。桜子は充分過ぎるぐらい役に立っとる。……俺ががんばれてるんは、桜子のおかげや。」

そんな風に言ってもらえて……涙がこみ上げてきた。

熱のせいかな。
幸せなのに、うれしいのに、涙が止まらない。

「大好き。薫くん。……大好き。」

そうつぶやいたら、薫くんは声にならない声で唸った。

え?
どうしたの?

そっと離れようとしたら、薫くんは慌てて叫んだ。

「動くな!見るな!そのまま……。さんてんいちよんいちごぉきゅうにぃ……」

なに?
何のおまじない?

びっくりしてそのままじっとしてると、薫くんはしばらくぶつぶつと謎の呪文を続けから、ようやく深く息をついて私を手放した。

意味がわからない私は、ただ薫くんを見つめた。

薫くんは苦笑した。

「円周率。……桜子がかわいすぎて、反応してしもーた時の対処法。今日は40桁ぐらいでおさまったけど。……帰るわ。これ以上ココにおったら、歯止め効かんくなりそうや。」