小夜啼鳥が愛を詠う

返事できずにうつむいてると、光くんママがさくっと言った。

「そやねえ。生理中と排卵日は避けたほうがいいかな?」
「……。」

ますます何も言えない。

泣きそう。

熱がまた上がったのかな。
何だか、ぞくぞくする。

私は自分を抱きしめて、震えを我慢した。


帰宅すると、ママが熱いお風呂をわかして待っててくれた。
とにかく温まって、すぐにベッドに入った。

ママが生姜湯を持ってきて、ベッドの端に腰掛けた。
「今年のインターハイ会場は、九州ですって?……どうするの?さっちゃん、行くの?」

「うん。行く。学校からバスが出るんだって。行きも帰りも車中泊の強行軍だけど。光くんママが一緒に申し込んでくれるって。」
「えー。それ、きつくない?新幹線か飛行機で行ったら?」

……そりゃ、そのほうが楽だろうけど……。

「体調崩したら、周期も予定も狂っちゃうわよ。」
「ママ!」

ママまで、そんなこと言う!
もう!!

……こんなの、恥ずかしすぎる。
薫くんが余計なこと宣言するから……ううう。

私はタオルケットを頭までかぶって、ママから顔を隠して眠った。



熱のせいか、変な夢を見た。

桜がいっぱい咲き乱れた庭園で、会ったことも見たこともない本当の父親だという男性が、私に小さなモノをくれた。
そこに記された「明るい家族計画」という言葉がぐるぐるとまわる。

妊婦姿のママがセーラー服でサッカーをして、光くんママが流産したと泣いていた。

そして光くんの位牌……。

いやっ!
嘘だ!
違う!

「桜子!」

薫くんの声で、パチンと目が覚めた。

厭な汗で気持ち悪い。

「大丈夫か?うなされてたけど。……雨に濡れて、熱出したって?ごめんな。」
薫くんはそう言って、私の汗を自分のタオルで拭いてくれた。

「ううん。それより、おめでとう。本当に優勝しちゃったね。」
「……ああ。まだ実感ない。」

そう言うと、薫くんは私の両脇に腕を差し入れて、ぐいっと引き寄せて抱きしめた。

まるで赤ちゃんのように、私は簡単に薫くんに抱き寄せられた。

……薫くんからは、雨と、汗と……よくわからないけれど薫くんの香りがした。

私にとっては、とても安心できるイイ香り。
香水どころか、制汗剤も、整髪料も付けてないのに、どうしてこんなに蠱惑的なんだろう。

これが、フェロモンってやつなのかな。