小夜啼鳥が愛を詠う

「願掛け……。」

パパはそう復唱して、ハッとしたらしい。
パッと私を見た。

私は何の反応も返すことができず、ただ目を見開いて成り行きを見ていた。

いつの間にか光くんが私のすぐそばに移動して、観客を決め込んでいた。

「いや、薫くん、他のお客さまもいらっしゃるから……」
慌ててパパが小声でそう言って、薫くんの次の言葉を止めようとした。

でも薫くんはむしろ背筋を伸ばしてハッキリした声で言った。

「インターハイに出られたら、桜子と須磨に行くから。2人で。」

「……。」

パパは何も言わなかった。
いや、言えなかった。

言いたいことはいっぱいあるんだと思う。
目も口も開いてたし、唇も震えながら動いていた。

でも、しばらくたってからやっとパパの口から出てきたのは、低い呻き声。

「ほな。そういうことで。」

薫くんはそう言って、こっちに戻ろうとした。

「ちょっ!待って!薫くん!」
パパが慌てて引き留めた。

立ち止まってもう一度パパを見た薫くんの握った拳が、少し震えていた。

それを見たら、もう……私は、ただただ胸がいっぱい。
恥ずかしいとか、パパに気まずいとか、いろんな想いを凌駕する薫くんへの愛しさに満たされた。

パパは息をついて、言った。
「宿泊はダメ。日帰り。」

……2人で別荘に行くことは、許してくれるんだ。

私にとっては、それだけでもう充分だったんだけど、薫くんは違ったみたい。

「ほな、賭けたらええやん。マスターは日帰り。俺は1泊。」

偉そうにそう言って、席に戻って来た。

「薫。今の賭けは、おかしいよ。そもそもさっちゃんと須磨に行くのは、インターハイ出場が条件なんだよね?マスターとの賭けは噛み合ってないし、成立しないよ?」

光くんにそうツッコまれて、薫くんは唇に人差し指を宛てて止めた。

「こら!言うな!しーっ。」

でも、ちゃんとパパにも聞こえたみたい。

「ほんとだ!ちょっと薫くん!ひどいんじゃない!?」
パパは苦笑してそう抗議した。

薫くんは肩をすくめた。

「そうけ?勝手にコソコソそのへんのラブホでやるより、誠意あると思ってんけど。」

……ラブホ……うわぁ。。。

聞いてるだけで、両頬が熱くなってきた。