小夜啼鳥が愛を詠う

薫くんも気づいたらしく、スピーカーと、それから光くんとパパに目を泳がせた。

音楽の教科書にも「メリー・ウィドウ・ワルツ」として掲載されているこの曲の邦訳はタイトルも含めて幾種類もある。
ややこしいので私は原語を覚えた。

 Jeder Druck der Hände
 deutlich mir's beschrieb
 Er sagt klar: 'sist wahr, 'sist wahr,
 du hast mich lieb!

「言葉にしなくても、手をつなぐ度にわかる。愛してる、って。」

簡単に直訳してそう言ったら、薫くんは片頬だけ上げて笑った。

……ダメ……そのイケズっぽい表情も、好き。

「アホやな。桜子、真っ赤。照れるんやったら、言わずもがななこと言わんでもええのに。」

薫くんにそうからかわれて、私はうつむいた。

そうじゃないんだけど……薫くんの表情にときめいてるんだけど……恥ずかしいので誤解に乗じた。

「……歌詞の日本語訳だもん……今、この曲をかけた光くんが悪いんだもん。」

「でも、うれしい。……せやから、俺も、ちょっと勇気出して、言わんでもええこと言うてくる。」
薫くんはそう言って立ち上がった。

……勇気?

キョトンとしてる私を置いて、薫くんはカウンター中央に座るとパパのほうに身を乗り出した。

「マスターも、俺らがインターハイに行けるかどうかで、賭けしてるんやって?」

パパは、やばい!と思ったみたい。

ちょっと及び腰になって、作り笑顔が固まり……
「……ごめん。怒ってる?」
と、気遣わしげに薫くんをうかがった。

他にまだお客さまもいらっしゃるのに、言葉が乱れてるよ……パパ。

「……まあ、面白くはないけどな。最初は、おばあちゃんが俺らを応援して毎日神社にお詣りしてくれるって話やったのに、お母さんが悪のりしたせいで、願掛けがただの賭けに変わっとーるねんもん。」
薫くんはそう愚痴をこぼした。

なるほど……光くんママらしいというか……。

「あ。そうなんだ。……家族ぐるみで賭けにしてるって思ってた。……ごめん。」

パパがそう言うと、薫くんはもっともらしくうなずいた。

「いや。楽しんでもろとるんは、かまへんけどな。……俺は俺でマジな願掛けしとーねんか。」