小夜啼鳥が愛を詠う

そう言ったら、薫くんは一瞬、泣きそうな顔になった。

「……桜子、イイ子過ぎ。無理して笑わんでいいから。淋しい、つまんない、って言うていいから。」

……だって……。

「そんなこと言ったら、薫くんを困らせてしまうもん。」

泣きそう……。

薫くんは、私の手を取ってもてあそびながら言った。

「困りたいんや。……いや、違うな。……桜子ともっと一緒にいたい、って、俺も言いたいんやな。それって、当たり前の想いやろ?」

……うん。

だって、好きなんだもん。
こんなに、大好きなの。

1日のうちのわずか30分程、それもパパや光くんが目を光らせてるお店でしか会えない。
まるで、囚人の面会だ。

「2人で過ごしたいね。」

そう言ったら、薫くんの頬が少し赤らんで……その意味を想像すると、私も気恥ずかしくなった。

……もうりっぱにオトナだもんね……薫くん。
さすがに、性欲……たぎってるよね……。

「……インターハイに出場できたら……」
薫くんが緊張したおもむきでつぶやいた。

「うん。」
私に迷いはなかった。

……てか、薫くんは何も言ってない。
でも、さすがに聞かなくてもわかる。

もうずいぶんと前から、薫くんは私を求めている。
言葉にしなくても、瞳は雄弁だ。

だから、私も薫くんをじっと見つめた。

薫くんは、しばし私を見て、頬を緩めた。

やらしい!……とは、思わなかった。

そっと手を伸ばして、薫くんの指に触れた。

この指も、この手のひらも、この手首も……ほぼ毎日見てるはずなのに、いつも感動を覚える。

あの紅葉のような小さなおててが、こんなに大きく骨っぽくなるなんて。
男の子って、本当にすごい。

薫くんの指が緩く曲がり、私の指と絡まる。
いわゆる「恋人つなぎ」だ。

薫くんはコレがお気に入りらしい。

理由は、かつて私はずっと光くんとも普通に手をつないでいたけれど、さすがに全ての指を絡め合うことはなかった。
こんな風に手をつなぐのは薫くんだけ。

……それが、薫くんの優越感を満たすみたい。

いつの間にか、BGMがレハールの”Lippen schweigen”に変わった。

たぶん光くんの仕業だろう。