小夜啼鳥が愛を詠う

「……えー。幽霊ちゃうん?幽霊やろ?」
「小夜啼鳥だよ。……こっちかな。」

光くんはそう言って、御堂の裏側へと回った。
慌てて、薫くんと私もついてく。

どうやらフェンスの向こうから聞こえてくるようだ。

つまり、あの洋館から?


薫くんは、嬉々としていつものようにフェンスをこじあけた。

「……薫が壊したんじゃなくて、もともとこういうモノだったの?」
光くんが私にそう聞く。

「うん?うーんと……少なくとも3年前からこんな感じだったよ。」
そう答えると、光くんは苦笑していた。

薫くんは逸る心をおさえて、私たちの足元を気にかけて先導してくれた。
でも山道に慣れてない光くんは、何度も足元を滑らしていた。

「大丈夫?」
その都度、光くんが転ばないように支えようと手を出した。

「ありがとう、さっちゃん。……薫。ごめん。怖い。」
光くんは、私ではなく、薫くんに助けを求めた。

「しゃーれへんな。ほら。」
薫くんが光くんに手をさしのべる。
……いつも、私にしてくれるように。

……。

……私は~?

ちょっと、淋しく感じたの、薫くんに伝わっちゃったのかな。

「桜子も?来るか?」
薫くんは、私にそう聞いた。

「うん!」
迷わずそう返事して、私は薫くんの空いた手に飛び付いた。


3人で手をつないで、道なき山を歩く。
すぐに山荘が見えてきた。

やっぱりここから声が聞こえてる。

私たちは顔を見合わせて、うなずきあった。

踏み出す足も、音を立てないように、そーっとそーっと近づいてく。
窓を覗き込みながら、壁づたいに回る。

例の、光くんに似た肖像画のあるお部屋。
まさに、そこに女性がいた。

こちらに背中を向けてソファに座ってる。
耳にはイヤホン。

なるほど、曲を聴きながら歌ってたのか。
斜め後ろからだけど、彼女がリズムを取ってるらしく揺れる度に、お顔も見えた。

「……幽霊ちゃうやん。」
低い声で薫くんがうらめしげにそうぼやいた。

「この山荘の持ち主かな。」
光くんのつぶやきに、薫くんが首を振る。

「ちゃうちゃう。ここ、お寺のもんやて。」
「じゃあ、お寺で働いてる……おばさん?」
「せやな。お姉さんちゃうな。」
「何で歌ってるんだろうね。」
「知らん曲やなあ。」

小門兄弟の会話を聞きながらも、私はその女性の背中から目が離せなかった。


……私は彼女を知っていた。