小夜啼鳥が愛を詠う

朝秀春秋先生がリトグラフにし、2年前にわざわざ車で観に連れて行ってくださった桜。

……ママは多くを語らないけれど……たぶん、パパ以外の男性との思い出がある木なのだろう。

私の遺伝子上の父親……なのかな。
まあ、それ以上聞かないし、今さらどうでもいいけどね。

「行く。仁和寺だっけ?……むか~し、光くんが住んでたお家の近く?」
「……そうだね。子供の足では遠く感じたけど、たぶんそんなに離れてないな。ここからならバスで近づいて、歩こうか。」

異議なし!



仁和寺は平日でもものすごくこんでいた。
でも、納得だわ。

背は低いけれど、立派な桜の木がいーっぱい植わってる。
桜越しに塔や楼門、お堂の屋根……絶景だわ。

「賭けの話はおいといて……さっちゃん、高校に顔出したほうがいいよ。」
桜を愛でながら、光くんが言った。

「……うん?来月、来年の教育実習のお願いに行くけど……。」

そう言ってみたけれど、光くんは眉をひそめた。

「あ。そっか。それがあったか。……じゃあ、あんまり目立つのはまずいか。……でも、何となく、やばい気がするんだよね。……薫の周囲。」

ドキッとした。

「……うん。それは、私も……不安。みゆちゃん、いないから……。」

佐々木未来くんの妹のみゆちゃんは、難関のはずの音楽学校に、はじめての受験であっさり合格した。

もちろん心から祝福するし、椿さん同様応援するけどさ……一つだけ不安が生じている。

みゆちゃんは中学三年間、薫くんに他の女子が近づくことをいっさい許さなかった。

私に宣言した通り、薫くんにまとわりつくことで、ガードの役目を果たしてくれたのか、それとも、あわよくば……を狙ってたのかはわからないけど。

いずれにせよ、薫くんはみゆちゃんとつきあってると思われていたおかげで、女の子に遠巻きに憧れられるだけで済んだんだと思う。


「家に、来たらしい。女の子。……学校では、薫は忙しそうだから話す隙もないから、って。おばあちゃん、追い返すわけにもいかず、困ったみたい。」

それは……困るわ。

てか、そんなことするんだ……。

周りから攻めようと思ったのかな。
あるいは……家を見に来たとか……。

うーん。
いずれにせよ、迷惑な話。

「そっかあ。確かに、それは大変ね。……みゆちゃんがいなくなったのは、痛いわ……。」