小夜啼鳥が愛を詠う

でも、2回生になる前の春休みには、光くんは大好きなママと一緒に扇屋の彩瀬さんの出身地に出向き、あの山荘の絵を描いた小田桐ヨシツグさんのご実家のお寺を訪ねて過去帳を見せてもらっていた。

さらに夏休みに郷土資料館や県立歴史博物館に通った光くんは、いつの間にか昔のくずし字もすらすら読めるようになったらしい。

2回生の秋から始まったゼミで、担当教授から文献史学的アプローチで経済史を学ぶよう勧められて苦笑いしていた。

「まあ、マクロ経済や、ピケティよりは、マシか。」
経済学部のくせに経済にあまり興味のない光くんが珍しく自主的に勉強してるんだから、そりゃ、教授も推し進めるだろう。

……ということは、同じゼミになるには、私の卒論もミクロに絞られそうだ。

ちなみに、結局、扇屋の彩瀬さんが産んだ子の父親の特定はできなかったそうだ。

でも、ママと2人で、扇屋の彩瀬さんの先祖のお墓に参ったことで、光くんの中の彩瀬さんは成仏……まではいかなくても、気が済んだのかもしれない。

次第に、光くんが突飛な行動をすることが減ってきた気がする。
……単に、光くん自身が大人になっただけかもしれないけれど。



「さっちゃん、近代貿易から現代の流通は?うちの会社の資料を使ってさ。」

3回生のゼミの始まる頃、光くんはそう提案した。

それって、私に、ゆくゆくは会社に入れって意味かしら。
光くんママのように?

「……で、僕は、純喫茶マチネの帳簿を使っちゃおうかな、と。戦前、戦中、戦後と物がない時代に、代用コーヒーを使わずにホンモノのコーヒーを提供できたって、あきらかに裏があるよね。」
光くんは楽しそうにそんなことを言っていた。

……お互いの家の資料を融通し合うってことかしら。

「私はそれでもいいけど、光くんはもうちょっと時代を遡って範囲を広げたら?せっかく、くずし字、読めるんだし。」

「んー。……興味がわいたら。それより、さっちゃん。今年、薫たちがインターハイに出られるかどうか、賭けない?」
光くんはいたずらっ子のような表情で言った。

「賭けは……まずいような……。」


薫くんは、この春、高校生になった。

受験を終えると、合格発表を待つこともなく、サッカー部に合流して、毎日がんばっている。