小夜啼鳥が愛を詠う

「うん。私も光くんが消えないように、頑張って見張ってる。ね?」
「ね~。」

2人で顔を見合わせてそう言うと、薫くんはちょっとムッとしていた。

「……そばにいろ、って言ったの薫くんなのに……。怒らないで。」

腕にそっと手を絡めて、薫くんにそうお願いする。

薫くんは、天を仰ぎ、それから苦笑する。

「わかってる。怒ってへん。……ごめん。」

そうして、私をぎゅっと抱きしめる。

「……どんどん欲張りになってる気がする。桜子のこと、信じてるのに……わかってるのに……他の奴に触らせるのも、見せるのも嫌になる……。」

わあぁ。
恥ずかしいけど……うれしい……。

「独占欲だね。いいんじゃない?自然な想いだと思うよ。……じゃあ、僕も、これからは遠慮しようかな。」


光くんはそう言って、それ以来、私と手を繋がなくなった。

何となく淋しい気もするけれど、それで薫くんが心穏やかにいられるならそれでいい。

少しずつ、私たちの関係が変わっていく……。




4月半ばの日曜日。

株式会社菊地酒類醸造、つまり菊地先輩のご実家の会社が主催する観劇ツアーに参加した。

菊地先輩の関係者のみならず、椿さんの親類縁者、ご近所さん、小学校・中学校の同窓会、そして私たち友人の総勢300名がバス5台に分譲しての大ツアーだ。

椿さんに番手が付いたら、大劇場の貸切公演もする気らしい。

「愛されてるねえ……遠江(とおみ)椿くん。」
光くんはプログラムをめくりながら、しみじみそう言った。

椿さんは本名の名字を芸名に転用した。

「遠江は?どこから取ったんだろう?……これ、普通は、とおとうみ、って読むよね?」

首を傾げると、隣のママが涙ぐんで教えてくれた。

「去年退団された榊高遠さん……しーちゃんが、事故に遭われたでしょ?椿ちゃん、しーちゃんに憧れてたから、漢字を1字もらったみたい。遠江は、しーちゃんの出身地にちなんでるんじゃないかな。」
「あ……そうだったんだ……。」

しーちゃんこと静稀さんの話をすると、ママは必ず泣いてしまう。

静稀さんは、退団後、婚約者の松本さんと一緒にパパのお店に何度も来てくれた。

本当に幸せそうで素敵なお2人だったのに……結婚式の翌日、静稀さんは交通事故に遭われた。