「合格おめでとう!」

もう何度も、たくさんの人から言ってもらった、とっても幸せな言葉。

でも、今、私は逆の立場で祝う幸せを噛みしめていた。

よかった……本当に、よかったねえ……。

「……いや……うれしいんだけど……複雑……。」
野木さんは苦笑いしていた。

「こら。たかだか20万円を惜しまんとき。ご両親も喜んでくれはったんやろ。」
運転席から、快活にそう言ったのは朝秀春秋先生。

「たかだかって……。これだから、ぼんぼんは……。野木は中流階級の庶民なんだから、20万円って金額はB5カラー表紙36ページの同人誌を1000冊刷ってもまだおつりがあるのに。」
憮然とする野木さん。

「あら。でも、入学金以外は返金してもらえたんでしょ?よかったじゃない。私立の芸大の1年分の学費ってすごそう。」

私がそう尋ねると、野木さんは渋々うなずいた。

「うん。返金されたお金で、3年分の学費と入学金が払える。だから、ありがたいんだけどね……。どうせならもっと早く……。」
「贅沢言わないの。結果的に、第一志望の大学に行けるんやからよかったやん。」

ニヤニヤそう言った春秋先生に、野木さんは苦笑い。

「……確かに、第一志望の大学だけど……野木の第一志望の学部じゃないから……。」
「え!?そうなの!?」

びっくりした!
初耳だ!

……てか、裏があるのかな……それ。

野木さんが不合格だった本命の大学に追加合格の通知を受けたのは一昨日の夜。
私立の美大に振込も手続きも終えて、朝秀窯に引っ越した歓迎会の席で吉報を受けたそうだ。

「まあ、いいんじゃない?それだけ期待されてるんやろ。人間国宝の朝秀冬夏先生に。」
くすくすと、春秋先生は笑った。

「……野木もそう思う。でも、こんなことが許されていいんだろうか。美術科を受験したのに、工芸科で追加合格って。」
野木さんは素直に喜べないものを感じているらしい。

「そりゃ、仕方ないわ。洋画には親父さんの力、及ばへんもん。てか、親父さん、よっぽど野木ちゃんがかわいいんやなぁ。兄貴の時も俺の時も放置してたのに。」

春秋先生がさらりとそう言うと、野木さんは憤然と言った。

「遅い!コネ合格させてくれるなら、最初からそう言ってほしかった!したら、あんなにがむしゃらに受験勉強しなくてもよかったのに!入学金も無駄にしなくて済んだのに!」

……あ……別に、自力合格じゃないことを心暗く思ってるわけじゃないのね。

腑に落ちないのは、そこか……。