小夜啼鳥が愛を詠う

「しとーで。一通りの筋トレとストレッチ。それに走ってるねん。なあ?」

生来の京都弁に、この3年でお友達からうつった神戸弁を混ぜて薫くんが教えてくれた。

「走ってるの!?」

この坂の町を!?

「うん。ちょっと前から、薫も一緒に。ね?」

薫くんは、光くんにうなずいて見せかてら、私に向かって付け足した。
「中学いったらサッカー部に入るねん。せやし走っとー。」

中学って……まだあと5年あるよ?
5年後のために、ジョギングを始めたの?

「えらいねえ……。」

しみじみそう言ったら、薫くんはうれしそうに教えてくれた。

「あのな、勝手に桜子のとこ行ったらあかんって言われとったけどな、走ったらめちゃ早いねん。すぐ着くねん。」

え!?

「うちのほうまで走ってるの?」

行きはよいよい帰りは怖い……じゃないけど、山手の2人のお家から海際の我が家のマンションまで降りて来ちゃったら、帰りはずーっと登り坂。
走るのは、かなりきつそうだ。

「……そう。じゃあ、いつでも寄って。水分でも糖分でも、補給していって?」

そう言ったら、薫くんはぴょんぴょん飛んで喜んだ。

「あーあ。さっちゃん。そんなこと言ったら、薫、毎朝毎晩押しかけちゃうよ。ダメだよ。薫。」

光くんにそう窘められて、薫くんも私もしょんぼりした。

……光くんに会える機会が増えると思ったんだけどな。

いや、それより!
毎朝毎晩って言った?
すごくない?

「毎朝毎晩、走ってるの?……てか、光くんは中学も2号線まで降りてくるのに……。」

私が必ず車で移動する距離を、いったい何往復するんだろう。
男の子って、すごいなぁ。


「変な線香の匂いがする……。」
薫くんがお鼻をクンクンさせてキョロキョロした。

「お寺のヒトが来てるんじゃないの?」
光くんがそう言ったけど
「ここの線香と違う線香の匂いや。」
と、薫くんが言った。

……さすがというか……詳しすぎるわ、薫くん。

「藤やんに聞いてん。ここには、職員が毎朝、掃除とお勤めに来てるねん。」
「……ふじやん、って、薫のお友達だよね?何でそんなによく知ってるの?」

光くんにそう聞かれて、薫くんは胸を張った。

「藤やんのお父さん、寺の偉いヒトやねんて。神戸で一番偉いねんて。」

神戸で一番偉い……お寺の?……お坊さんってこと?

じゃあ、ここを管理してらっしゃるの?