小夜啼鳥が愛を詠う

掃き溜めに鶴、とは言わないけれど、黒光りしたアンティークばかりのインテリアの中で金髪に近い明るい髪色の華やかな美形カップルは異彩を放っていた。


パパは特別扱いすることもなかったので、2人はただ仲睦まじくコーヒーと音楽と、小声での会話を楽しんでいた。

とりあえず、椿さんにメールで伝える。
椿さんはまだ音楽学校生だけど、たぶん高遠さん改め静稀さんのことは敬愛していたはず。


「……さっちゃん。来たよ。」
ギャルソン姿の光くんが耳打ちしてくれた。

「椿さん?……じゃない。あ。……薫くん……。」

まだそんなに暑い時期でもないのに、ドアを開けた薫くんは汗だくで息を弾ませていた。
見ると、シャツが半分脱げてるというか……ボタンが飛んでる?

「桜子……ごめん。」
薫くんは、私を見つけると、すぐにそう謝った。

「え……?なに?」

びっくりしてると、カツカツと硬い靴音が近づいてきた。

薫くんの開けたドアが閉まる直前に、肩を割り込ませて来たのは、髪を振り乱したみゆちゃん。

その目がうさぎのように真っ赤で……鼻の頭も、頬も、赤くて、めちゃめちゃかわいくて……胸が痛んだ。

「……いらっしゃいませ。薫くん、他のお客さまに迷惑だから、静かにお願いしますね。」

パパが声を落としてそう言うと、薫くんは黙ってうなずき、みゆちゃんはぎゅっと唇を結んだ。

「じゃあ、ココ。どうぞ。」
光くんは、私が座ってるカウンターのはす向かいに薫くんを座らせて、みゆちゃんにはすぐにおしぼりを手渡した。

「……ありがとうございます。」
そう言って、おしぼりで涙を拭いてから、みゆちゃんはキョロキョロと斜め上を見渡した。

「結婚カンタータ……。」
「おや。お詳しいですね。バッハはお好きですか?」

みゆちゃんのつぶやきに、パパが反応した。

……てか、これ、結婚カンタータって言うんだ。
コーヒーカンタータみたいな別名なんだろうな。

そっか。
さっきのお客さまは、曲のリクエストをすることで遠まわしにパパに結婚を伝えたのか。

「いえ。詳しくはないです。サン=テティエンヌの教会で少し聞いただけで。」

みゆちゃんはそう言って、パパに笑顔を見せた。