小夜啼鳥が愛を詠う

「もちろんです。お耳にかなう盤がうちにあればいいのですが。……光くん、君、何て顔してんの。」

パパにそうつっこまれて、光くんはハッとしたらしく、お客さまに会釈した。

お客さまの顔がパッと明るくなった。

「……あれ?こちらのお店のかたでしたか。さっきは、ありがとう。」
「いえいえ。……ご縁がありましたね。……あの……、ご一緒にいらした女性は……。」

光くんは、珍しく、慌てているというか、動揺してるというか……

「光くん。」
パパが光くんの不作法を笑顔でたしなめた。

光くんは、深々とお辞儀して、着替えるために奥へと入っていった。

改めてパパが笑顔で言った。
「失礼しました。どうぞ。」

パパは手振りでお席に案内しようとしたけれど、彼はドアの前から動かなかった。

「はい。……曲ですが、『しりぞけ、もの悲しき影』をお願いします。」

すると、パパの目が大きく見開かれた。

「それはそれは!おめでとうございます。……エマ・カークビーでよろしいですか?」

パパと彼は、キャッキャとはしゃがんばかりだけど、私には全く意味がわからない。

黙って見てると、彼は照れくさそうにお礼を言った。

「あがとうございます。……紹介します。静稀(しずき)。おいで。」

彼がドアを開けて、手を取りエスコートしてきたのは、透けるように白く、この世のものとは思えないほど清らかな美人……あれ?

「しーちゃんっ!」
思わず、叫んでしまった。

そうだ、さっき、光くんが図書館で確認してた、元トップスターの高遠さんだ。

び、びっくりした!

あ!
じゃあ、さっき、光くんが言いたかったのも、これ!?

「はい。先週まで榊高遠と名乗ってましたが、静稀と申します。」

高遠さん改め静稀さんは、元男役とは思えない澄んだ綺麗な声でそうご挨拶してくださった。

うわぁ~。

素敵素敵素敵!

「ようこそ。静稀さん。ご結婚おめでとうございます。」

パパは、例え芸能人相手でも、いつも通りの笑顔でそう歓待した……え?

結婚って言った!?
そんなこと、一言も言ってないのに……。

でも静稀さんは、頬を染めて、うれしそうに言った。
「ありがとうございます。……ずっと来たかったお店に、ようやく連れてきていただけました。」

……え……。

ホントにご結婚されるんだ。

寿退団ってやつ?

ひや~。