「ふーん?明田先生を追っかけないなら、光くんのお世話をするって選択肢もある?私、野木さんと親戚付き合いしたい。」

あまり何も考えずにそう言ったら、野木さんはわかりやすく照れていた。

「……いや、それは……。野木の決めることでは……。いや、野木も、さくら女とは、ずっと仲良くしてほしいが……。いや、でも……。」

野木さんがぶつぶつ言ってると、チャイムが鳴った。




退屈な始業式が終わり、教室に戻ると、光くんが席で読書していた。

「何読んでるの?……雑誌?」

珍しいな……。

「うん。図書館にあった。歌劇団の専門誌。」

光くんがパラパラとページをめくって見せてくれた。
男装の麗人や夢々しい娘役ちゃんたちのカラーポートや、舞台写真。

「あー、それ。うちにもある。ママが定期購入してるの。」
「そうだったんだ?じゃあ、さっちゃん家(ち)に寄って見せてもらえばよかった。……さっきね、このヒトを見かけたんだ。男のヒトと一緒だった。確かトップスターだった気がしたから、いいのかな?って思って。……今、調べたら、先週?退団したんだって。」

そう言って光くんが指差したのは、透明感のある、まさしくフェアリーなショートカットの女性。

「え!しーちゃん!……ママ、めっちゃ好きよ。高遠(たかとお)さん。榊(さかき)高遠さん、ってゆーの。」

私は、ページをめくって舞台写真を指差した。

「ほら。素顔はかわいい女の子なのに、舞台は貴公子でしょ?すっごくかっこいいの。品があってね。」
「へえー。……あー、でも……うん、そっか。」

光くんは、独りで納得してニコニコした。

「なぁに?」
「うん。こっち。舞台写真のこの雰囲気。一緒にいた男のヒトと似てる。品のある、ハーフっぽいヒトだったよ。……ね、……てことは、さ……、椿さんも、菊地先輩に似た男役になるのかな。」

そう言って、光くんはクスクスと笑い始めた。

「……それは……いや、確かに、菊地先輩カッコイイけど……ええっ?かなり、ワイルドでやらしい……いや、でも……男役の色気に活かせるなら、それはそれで……うーん。」

「椿氏は、髭の似合うセクシーガイになると思う。」

野木さんがボソッとそう言って、そそくさと逃げて行った。