「確かに、音楽学校はまだ春休みだけど。レッスン以外は菊地先輩と一緒にいるんじゃない?菊地先輩に聞いてみれば?」

珍しいな。
光くん、椿さんに何の用事だろう。
関係したこともある野木さんならともかく……。

「さくら女。小門兄、見つかった?」
その野木さんだ。

心配してくれたのかな。

「うん。碁会所みたい。」
「あー、そう。どこの女と一緒かと思った。」

しれっとそう言った野木さんに、眉をひそめて見せた。
野木さんは私の非難を一向に気にする様子もなく、鼻歌まじりに鉛筆を削っていた。

「今日から早速、部活?」
「んー。部活もあるけど……予備校?」
「え!?野木さん、予備校行くの!?すごい!」

びっくりしてそう尋ねると、野木さんは頭をかいた。

「……いや。すごいのはさくら女のほう。独学でずっと学内2位。模試もA判定。……野木は勉強はCで微妙。とりあえずは実技を磨く。京都の美大の予備校に週2日行くことにした。春秋先生もお世話になったところらしい。」
「え……まさか、京都まで通うの?週2日も?」

驚いたけれど、野木さんは首を傾げた。

「も、って……。さくら女も、小門兄も、京都の大学に合格しても、神戸から通うつもりなのに。野木は合格してもしなくても、来年は京都に住む予定だけど。」
「……そうなの?え?不合格でもって……滑り止めに京都の別の美大も受けることにしたの?」

……まさか、野木さんとも、始業式早々こんな話になるなんて……高3って、本当に……受験一色なのね。

「受ける。公立も私大も受ける。落ちても、京都の予備校に行く。」

そう言って、野木さんはニッと笑った。

「朝秀窯の二階に下宿させてもらうことにした。」
「えっ!?」

野木さんが、そこまで朝秀家に入り込んでるとは思わなかった。

「……そっかあ。着々と目標を定めてたのね。……てっきり、大学生になったら、夏休みと春休みはパリに行くのかと思ってた。明田先生を追いかけて。」

そう言ったら、野木さんは苦笑した。

「行っても迷惑だろうし、やめとく。春秋先生がたまに様子見に行ってくれてるから、生存確認はできる。……先のことは、野木自身の心の赴くままに。」

……未定ってことかな。