小夜啼鳥が愛を詠う

薫くんは、私と光くんの間にわざわざ割って入った。

そして、光くんが私に差し出していたその手を取って、挑戦的に言い放った。

「光、さっきの話、なし。桜子、俺のんやし。」

……さっきの話?
光くん、薫くんに何か言ってくれたのかな?

よくわからないけれど、薫くんはもう片方の手で私の肩を抱き寄せた。

きゃっ!
ぶるっと身体に震えが走り、私は首をすくめた。

……ち、近い……。

うれしいのに、恥ずかしくて、薫くんのお顔を見ることができない。
私のドキドキが薫くんにそのまんま伝わってそう。

「……おっかしいな~。須磨で恋するのは、薫大将じゃなくて光源氏のはずやのに。薫は京都の宇治やのに。」
たぶん気を遣って身を隠してくれたのだろうけれど、光くんママのつぶやきが聞こえてきた。

「だから、言うとるやろ。あおいが光を産んだ段階で、設定おかしいねんから。」
苦笑交じりの光くんパパの声。

……この小さな恋の成就を祝福し、見守ってくださろうとしているのがよくわかった。

でも、薫くんは、恥ずかしかったみたい。
いたたまれない!という顔で、バタバタと走り出した。

薫くんに引っ張られ、光くんと私も玄関を飛び出た。


光くんが、私にだけ見えるように、ウィンクを寄越した。
  
  おめでとう
  よかったね
  幸せになるんだよ

……そんな気持ちが伝わってくるような、優しいウィンクだった。



「そっか~。源氏物語でいくと、確かに薫くんは宇治で、光くんは須磨に縁があるのねえ……。」
浜辺に腰を下ろして、さっき、光くんママが言っていた言葉を繰り返した。

「桜子は?」
たぶんまだ源氏物語に馴染みがないのだろう、薫くんがそう尋ねた。

「桜は……いないね。藤壺、紫、六条、葵、夕顔、朧月夜、花散里、末摘花、明石……あれ?確かに須磨に流されるけど、実際に恋するのは明石だわ。」

源氏の女人達を指折り数え挙げて、そんな話をしていると、光くんが教えてくれた。

「一応『桜人』という巻もあったらいんだけどね、散逸してしまって内容はわからないんだ。……象徴的だね。」

意味深に光くんがほほ笑むと、薫くんがもっともらしくうなずいた。

……薫くん、意味わかってるのかな。