小夜啼鳥が愛を詠う

その日の午後は、いつもより風が強くて波が少し荒れていた。
穏やかな海になれた私たちは、荒れた海が物珍しくて、飽きもせずに浜に降りた。

冷えてきたのでカイロ代わりに缶コーヒーを買ってくる。

ザザーンと打ち寄せる波の音が大きくなってきた気がする……。

ふと、気づくとさっきまで隣に居たはずの光くんがいない。

「光くん?」

慌てて探すと、いたいた。
光くんはまるで女神のように荒れた波間に立っていた。

「何?また?」
スマホでサッカーの試合中継を聞いていた薫くんが、慌てて顔を上げた。

「うん……また……憑依(お)りてきたみたい……彩瀬さん。」

薫くんはため息をついて立ち上がると、私にスマホを預けた。
……前にも水没させたことがあるので、さすがに薫くんも慎重になっていた。

「あー、またズクズクに濡らしとるわ。光~~~~!」

薫くんが光くんに駆け寄り、手を引っ張って、海からざぶさぶと上がってきた。

私も駆け寄って、ハンカチを差し出す。
「光くん、大丈夫?」

「ありがとう、さっちゃん。でも、ソレじゃおっつかないみたい。一旦、別荘に帰るよ。行こう。」

光くんは飄々とそう言って、いつものように私に手を差し出した。

……また、だ。

私ってば、馬鹿。
もう何度も同じことを繰り返してる。
もっと大きなタオルとか、ちゃんと持ってくるべきなのに。

……結局、光くんを見守ってる、なんて口先ばかりで親身になってないのかもしれない。
自分を偽善者のように思えて恥ずかしくなった。

私とは対照的に、光くんはくったくなく、つないだ両手をぶんぶんと振って歩いた。
左手に薫くん、右手に私。

「あーあ。また風邪引いちゃうなぁ。別に取り憑くのはいいけど、時と場合を考えてくれないかなあ。」
まるで子供のように光くんがぼやいた。

「頼めんの?彩瀬おじさんに。冬の海はやめてって。」

薫くんの素朴な疑問に光くんが目を見張った。

「そっか。薫、いいこと言うね。うん、そうだね。彩瀬パパと違って僕は生身の人間だから、冬の海はちょっとねえ……。」
何度もうなずきながら、光くんはそう言った。

「そんなことできるの?光くん、死んだホントのお父さんと、今も会話できるの?」

もしそれができるなら、話は簡単なんじゃない?

彩瀬さんがちゃんと成仏できるように、光くんママと直接話してもらえるかもしれない。