小夜啼鳥が愛を詠う

3日後、海の中を覗き込んでる光くんが
「あーちゃん……どこ?……あーちゃん……」
と、ぶつぶつ言っていることに気づいた。

もしかして、光くんママを探して海に入るの?
どういうこと?


その夜、仕事を終えてから、夕食を持ってやって来てくれた光くんママに聞いてみた。
「海で溺れたこと、ありますか?」

「へ?」
光くんママは、突拍子のない質問にポカーンとしていた。

「あ。すみません。……えーと……光くんが、この寒いのに海に入ろうとするので……何か理由があるんだろうな、と思って。」

そう説明すると、光くんママは、
「あーーーー。」
と低い声で唸った。

……あるんだ。

光くんママは、ちょっと逡巡したけど、ため息まじりに教えてくれた。

「小さい頃にね……。彩瀬が助けてくれて、何とか生き延びた。……そう。彩瀬、今も海の中で小さい私を探してくれとるんやねえ。」

……いや……海に入ることだけじゃなくて……普段の生活自体もそうだと思うけど。

「そう言えば、昔っから光は須磨に来ると、しょっちゅう海にはまってたのは、そういうことやったんや……。そっかぁ……。」
しみじみと光くんママはそう言った。

「……そうでしたっけ?」

私にはあまり記憶がない。
むしろ薫くんのほうが、はしゃぎすぎてずぶ濡れになってたような……。

「まあ、さっちゃんが一緒にいてくれる時は、ちゃんと光を見てくれとったから、光が光でいられたんちゃう?」

そう言ってから、光くんママは苦笑した。

「昔とは事情も違うんやし、あんまり気にせんでええよ。さすがに溺れることはないやろし。風邪引いても、光は身体も鍛えとーから。むしろ、さっちゃんが心配。」
「……はあ。」

事情が違う……か。
確かに、そうかもしれない。

私、昔と違って……ずっと薫くんを目で追ってる。
光くんと2人で手を繋いでいても。



それからも、光くんは浜に行くと、心ここにあらずといった態(てい)になった。
薫くんも、私も、光くんがどこかへ行ってしまわないように、ずっと側にいた。

光くん家の会社の仕事納めが終わり、ようやく光くんママとパパの頼之さんがやってきた。
ようやく最愛のママを独占できて、光くんはものすごーくテンションが高かった。