小夜啼鳥が愛を詠う

私はなるべく普通に笑顔でお礼を言った。
「ありがとう。でも、おんぶはいい。歩く。」

私は自力で、また歩き始めた。
すぐに、両手をまた2人に繋がれて、少し引っ張ってもらったけど。

……姫というより……子供扱いかもしれない。



半年ぶりの小門家の別荘は、いつも通りとても綺麗に整えられていた。
行く直前に、一通りのお掃除とベッドメーキングをしてもらっているらしいので、まるでホテルのように快適だ。

荷物を置いて紅茶を入れようと思ったら、今回は光くんが既にキッチンに立っていた。

「マスターからコーヒー豆をもらってきたんだ。今、入れるから。」
そう言いながら、光くんは、ミルのハンドルをゴリゴリと回す。

「ほんまや。この匂いや。」
薫くんも、うれしそう。

「うん。いい香り。……光くん、ありがとう。」

「どういたしまして。でも水が違うんだよねぇ。同じ味にはならないと思うよ。」
光くんはそう言いながら、丁寧にコーヒーをドリップしてくれた。

注意深く、パパと同じように、真剣に入れてる光くんを見てると、何となく不思議な気持ちになった。

……似つかわしい、って言うのかな。

何となく、とても自然な気がした。

光くんは、本当にこのまま、パパのお店を継ぐのかもしれない。


「はい、どうぞ。」

光くんは、オールドノリタケのカップでコーヒーを出してくれた。
渋い金彩が上品に鈍く輝き、ボーンチャイナによく映えていた。

一口飲んで、びっくりした。
確かにパパのコーヒーと全然違う。

「……これはこれで、美味しい。雑味がなくて、クリアー。」

なるほど、水が違うってこーゆーことなんだ。


パパのおじいちゃんがあの場所に純喫茶マチネを開店させたのは、特別にまろい軟水の井戸があるためらしい。

神戸から西宮にかけては、一口に六甲山系と言っても、いくつもの河川が流れているため、様々な種類の水が湧き出ている。

そしてここ須磨は、けっこう硬めの水らしく、コーヒーの旨味と酸味が少なくなり、苦味が強くなってる気がした。

「うーん。俺は、マスターの入れるコーヒーのほうが好きや。」

薫くんは、首を傾げてそう言っていた。