小夜啼鳥が愛を詠う

しばらくして、お客さまがいらした。

「マスター。これ。ドアの前に置いとったで。出前の返却か?」

その手には、優雅なコウルドンのコーヒーカップ。

さっき、薫くんが持って行ってしまったものだ。

「すみません。恐れ入ります。ありがとうござきます。」
パパは恐縮してカップを受け取ると、少し鼻を近づけて、残り香を確認したようだ。

「薫?」

光くんの問いにパパは片頬だけ上げてうなずいた。

「……あーあ。いつ来たんだろう。……また誤解をこじらせちゃったね。たぶん。」

光くんは私にそう言ってから、お客さまのもとへと向かった。

……軽やかな足取り。

彩瀬さんか、光くんか知らないけど、絶対、楽しんでるよ、あれ。
でも確かに……光くん、ずっと私にくっついてたよね。

確信犯なのかな。

……わかんない。

でも、不思議。
前のように、ドキドキしなくなってる。

パパか、お兄さんか、弟みたいな存在なのかな。

光くんに甘えるのも、甘えられるのも、頼るのも、頼られるのも、すごく自然で当たり前のようになってるみたい。
かつての薫くんと、立場が逆転したかも。

薫くん……。

告白……か。

どうしよう。
どんなタイミングで、どんな風に言えば、伝わるんだろう。

私が、光くんじゃなくて薫くんが好き、って……わかってもらえるかな。

……かなり……不安だわ。




実際、薫くんは、こじらせまくっていたようだ。

家でも、やけに光くんにつっかかって、頼之さんに怒られてたみたい。

「めんどくさいから、一緒に登下校する?って誘ったんだけどねー、方向違うし、何より意地になっちゃってるみたい。まあ、来年度は一緒に登下校できるね。」
終業式の朝、光くんはそう言ってから、ふふっと楽しそうに笑った。

「てか、来年度だけなんだね。……ね、さっちゃん。教職とるって言ってたよね?教育実習は、もちろん母校だよね?……薫も受験する予定だよね。」
「……実習は、高校に行くとは限らないと思うけど。てか、光くん、なんか、やらしいこと妄想してない?うちのパパに怒られるよ?」

口をとがらせてそう言うと、光くんはキョトンとした。

「え?……教育実習に行く頃って、さっちゃん22歳、薫は17歳だよ。さすがに、もう解禁でしょ?それとも、結婚するまでプラトニックを通すの?」