光くんは、みんなに心配されてる自覚があるんだかないんだか、飄々と生きていた。

あいかわらず、学校の行き帰りは私と一緒。

放課後は、溜まり場だったアトリエを閉鎖したため、空手か碁会所か、パパのお店にいたけれど……やっぱり、何か変。
突然、海に行きたがったり、感傷的になる気がする。

危惧してる野獣モードのほうは落ち着いてるのか、もしくはこっそりやってるのか、……とにかく、私には一切その片鱗を見せなかった。



「てか、サッカー部にも来てくれゆーとんのに。」

菊地先輩は、高校最後の大会にほぼ無理やり光くんを引っ張り出した。
普段、部員と練習しないわりには、光くんは上手く立ち回り得点に貢献した。

でも大躍進もベスト8でストップ。
菊地先輩は、夏を待たずにサッカー部を引退した。

推薦で秋に大学に合格すると、宣言通り免許を取り、後輩の指導に当たった。

「まあ、指導できるほど俺は巧くもないけどな。」

菊地先輩はそう言っていたけれど、明るく気さくなお人柄は中学サッカー部でも、高校サッカー部でも愛されていた。

誰より喜んでいたのは、薫くん。
菊地先輩は、薫くんをわざわざ呼びつけて、中学サッカー部の練習に加わらせてくれた。

そして、私も……。
ほぼ毎日、薫くんを見ることができるようになった。

何も言わないけれど、菊地先輩は私のこの恋を応援してくれてるような気がした。

……てか、ほんと……バレバレなのね。
たぶん、気づいてないのは、薫くん本人だけ、なんだろうな。



二学期の期末テストが終わったその日、いつものように中学サッカー部にまじる薫くんを眺めていると、転がって来たボールを追って、佐々木未来くんが走ってきた。

私は、サッカーボールを拾い上げて、未来くんに軽く投げた。

未来くんは手を挙げて会釈して、ボールをポーンと高く遠くに蹴り上げた。

そして、くるっと振り返って私に言った。

「桜子さんって、薫が好きなんですよね?」

これまでほとんど言葉を交わしたこともない未来くんに、めちゃめちゃストレートに聞かれてしまってびっくりした。

「え……あの……え………………。」

まともに答えられず、あわあわしてると、未来くんは苦笑した。