「……もしかして、野木さん、不毛で不憫なヒトに惹かれる?」
恐る恐るそう聞いてみた。

すると野木さんは笑顔のまま、ホロッと涙をこぼした。

でも、むしろ胸を張って、野木さんは堂々と言った。
「そうよ。明田さんも不憫。野木も不毛。でもいいの。この想いを芸術の肥やしにして、野木は頑張るんだから。」

そう言って野木さんは、さっき破いたページを私に突き出した。

てっきり私の絵が描かれてると思ったのに、違った。

描かれていたのは……
「おたふく?私、下ぶくれ?」

そう聞いたら、野木さんはガックリと肩を落とした。

「まだ途中とは言え、おたふくって……。能面よ。面(おもて)。泥眼(でいがん)を描こうと思ったんだけどね……。さくら女に、嫉妬を期待した野木が馬鹿だった。さくら女は、ほんと、イイ子だわ。……姫だわ。小門兄以上に、姫だ……。」

「でいがん……。沖縄の言葉みたいな響きね。」

「泥(どろ)の眼(め)ってかくの。高貴な女性が嫉妬して苦悩してるお顔よ。」

あら。
それなら聞いたことがある!

「六条御息所でしょ?知ってる!……てか、私も、嫉妬したよ。薫くんを慕うカワイイ女の子に。」

そう白状すると、野木さんは探るように私を見た。

「ほう?小門兄と寝た野木ではなく、小門弟と仲良しの小学生女子に妬いた……と?」

改めてそう確認されると、ちょっと笑ってしまった。

「うん。野木さんには幸せになってほしいから、不安はあるけど。あ……、光くんのお父さんが言ってたよ。光くんの色香に惑わされて流されないように、って。」

光くんは男でも女でも見境ないから、って言われたことまでは言わなかった。
さすがに、野木さんに失礼かと思って。

でも、野木さんは自分で言っちゃった。
「それは、さくら女にだからそう言ったの。小門兄は男にも女にも見境なくフェロモン垂れ流しだから。……でも、野木は、可能なら、小門兄が他の誰かと絡むのも観ていたい。……明田さんなら最高なんだけどなあ。」

「はあっ!?……それって……変態……。」
さすがにびっくりした。

でも、野木さんは飄々と言ってのけた。
「そうなった時、野木がどっちに対して嫉妬するのか、興味もある。」

……何てゆーか……野木さん……わかんないわぁ。

まあ……いいか。