小夜啼鳥が愛を詠う

「さっちゃん。あーちゃん来たよ。あとで一緒に写真撮ろう。」
にこーっと微笑んで、光くんはそう言った。

かわいい笑顔……ダメだ。
こんな顔されちゃ、怒れない。
自分のクラスに戻るように言わなきゃいけないのに。

「ま。バレなきゃいいんじゃない?」
そう言って、椿さんが一歩下がって、私の隣に光くんを入れてくれた。

みんなびっくしてるけど、騒ぎが起こる前に、式典が始まった。
まんまと光くんは、私の横をキープしたまま、体育館に入場し、長椅子に着席した。


保護者席には、ジャケットを羽織ったパパと着物のママがいた。
光くんのパパとママも、いかにもビジネスマンといった風情のかっちりしたスーツで肩を寄せ合っていた。
みんな一様に涙ぐんでいた。
小学校の卒業式でも保護者席はみんな泣いてたけど、入学式でも泣くものなのね。

「泣かないで。あーちゃん。笑顔が見たいんだ……。」
隣で光くんがそうつぶやいた。

……ううん、ちがう気がする。
もしかして、亡くなった彩瀬さんなのかな?

確かめる術(すべ)もなく、式典の最中なので光くんに話しかけることもできない。
先生の目を盗んで、光くんの様子をうかがってみたけれど、それっきり。
光くんは、退屈そうに俯いていた。

校長先生の長いお話の途中で、不意に光くんが小声でつぶやいた。
「さっちゃん。エア連珠しよっか。」

はあっ!?
無理!
普通に碁盤や連珠盤でさしても難しいのに、エア連珠って!
私の脳内には連珠盤なんてないよー。

でも、光くんはすっかりその気になったらしい。
「じゃあ僕から。8の八黒からだね。さっちゃん、白はどこに置く?」

「上。だから、うーんと、8の七白?ってこと?」

意味を考えて正確に表現するだけで必死。
とてもゲームの勝敗を争えるレベルじゃない。

「8の九黒。……花月だね。」
ニッコリと光くんが笑った。

ううううう。
ダメだ。
勝てる気なんか最初から万にひとつもないけれど、頭の中の連珠盤がすでにガタガタ揺れてる。

光くんの言った「花月」とは、連珠の定石の名前だ。
連珠には初めの三手の珠型に決まった定石があり、この「花月」は40手ぐらいで勝負がつく。

光くんと知識を共有したくて、私は定石も必死で覚えた。

でもそれって、あくまで、連珠盤の上に石を並べたのを視覚で見て覚えてるわけで……