小夜啼鳥が愛を詠う

野木さんは、目をこすってから言った。

「あの日、野木は、帰宅してすぐにココに来たの。いつも通り、明田さんはキャンバスに向かって、小門兄はくつろいで読書してた。でも、ほら、覚えてる?あの夜、けっこう冷えたでしょ?それで、物置から古いストーブを出してきたの。一緒に古い灯油缶と灯油のホースもね。でも、明田さんが給油したら、ホースが傷んでたみたいで、灯油が噴水みたいに吹いちゃったの。明田さんも小門兄も灯油を浴びてしまったから、私が2人の服をコインランドリーに洗いに行ったってわけ。……さくら女、その時に来たんじゃないかな。」

「……灯油……。」
そんなことがあったんだ。

「……じゃあ、光くんと明田先生って……そーゆー関係じゃなかったの?」

あ……私の声……震えてる。

だって……野木さんに指摘された通り、私、例のアレを見たから、光くんのことをあきらめる踏ん切りをつけたんだけど……。
まさか、勘違いだったなんて……。

じゃあ、光くんは……。
光くんの発情期は、どこで消化してるんだろう。

野木さんは気の毒そうにうなずいた。
「違う。今は。……てか、それで明田さん、ずっと苦しんでた。小門兄の中に、かつて好きだった彩瀬さん?……が、いるから、理性と戦い続けて……限界みたい。」

……ああ。
そっかぁ。
明田先生、ちゃんと自制してくださってたんだ。

なんだ……。
疑って、失礼だったかな……私……。

「小門兄、あからさまに明田さんに甘えるから……。」
そうつけ加えた野木さんが、ぷんっと拗ねてるように見えた。

「うん。そうなのよね。……でも、それ、光くんじゃなくて、彩瀬さんなのよね……。」
思わず、光くんの肩を持って、言わずもがななこと言っちゃった。

野木さん、鼻白んだかな。

「頭ではわかる。でも死んだヒトに嫉妬できないし。……小門兄の真意が見えない。」
アンニュイなため息まじりに、野木さんはそうこぼした。

なんか……色っぽい?
不思議な感覚……。

「もう、いっそ、野木さんが明田先生を押し倒しちゃえばいいのに。」
珍しく私は過激なことを言ってしまい、慌てて口を両手で押さえた。

失敗失敗。

でも、野木さんは、かすかに笑った。
「……もうとっくに、何度も押し倒してる。でも、野木じゃダメなの。明田さん。萎えちゃうの。」

えええっ!!!

椿さんといい、野木さんといい……いつの間にそんなことに……。
私だけがいつまでもお子ちゃまなのね……。

言葉が出なくて、口をパクパクしてると、野木さんはまた膝を抱えた。