小夜啼鳥が愛を詠う

……こんなにも、迷いのない好意を表現してくれてるのに、私、どうして不安だったんだろう。

大丈夫。
大丈夫。

私は根拠のない「大丈夫」を自分に繰り返した。




冬休みが終わる前日、ようやくパリから明田先生が帰国された。

その日、最後のボランティアを終えて携帯を見ると、野木さんからのメッセージ。

<明田さん、今年度で退職するって。パリに移住するって。>

ただそれだけの言葉の羅列。
絵文字がなくても、顔文字がなくても、野木さんが泣いてるような気がした。


帰りにアトリエに寄ってみた。
野木さんはソファで膝を抱えて胎児のようなポーズでひっくり返り、天井を見上げていた。

……お尻のストレッチでもしてるのかな?

「野木さん……明田先生、いらっしゃるの?」

そう声をかけると、野木さんは普通にソファに座り直した。

「さくら女(じょ)……。ううん。帰った。……もう、住むとこも、決めて来たって。」

妙にぼんやりした雰囲気でそう話し始めると、みるみるうちに野木さんの目が潤んだ。
いや、涙だけじゃなく、鼻水もずるずるな野木さんは、それでもとてもかわいくって……。
たぶん野木さんのかわいさは、造形だけじゃなくて、自分の気持ちを偽らない素直さなんだろうな。

「本気でパリへ行く気なんだ……。でも、どうして……。」

私は野木さんの隣に座って、ポケットティッシュを差し出してから、背中をゆっくりさすった。
野木さんはティッシュで涙と鼻水を抑えた。

「ありがと。……明田さん、前から行きたがってらしたから……。朝秀春秋先生にも勧められてて。でも、学校を辞めてまでは、って、ずっと我慢してらして……。」
そう言って、また新たな涙をこぼす野木さん。

「もう、戻って来られないわけじゃないんでしょ?」

そう尋ねると、野木さんはぷるぷると首を横に振った。

「……わからん。わからんのよ。でも、たぶん……。」

その瞳に涙が揺れて、また一筋流れ落ちた。

たまらず、私は野木さんを抱き寄せた。

歯がゆい。
私には何もしてあげられない。
この大事な友人が泣いてても……。


「小門兄、まだ知らないの……。ショックだろうな。……とても言えない……。」

いっぱい泣いて落ち着いたらしく、野木さんがポツリとこぼした。