小夜啼鳥が愛を詠う

12月30日は朝からお餅を搗(つ)くのが恒例行事らしい。
お供えの鏡餅や、お雑煮の小餅をつくってお正月を迎えるそうだ。

薫くんも藤巻くんも、毎年お手伝いしているらしく、勝手のわからない私だけが傍観者だった。

「搗いてみぃ?」

終盤になってから、年かさのボランティアさんに重たい杵(きね)を渡されたけど
「やめとき。明日、背中痛くなったらかわいそうや。」
と、すぐに薫くんに止められて、杵を奪われた。

「過保護ねえ。ちょっとぐらい大丈夫よ。さっちゃんだって、やってみたいでしょ?2、3回、形だけでも搗(つ)かせてもらいなさいな。」

玲子さんにそう言われて、薫くんは渋々私に杵を渡した。

……ホントに過保護なんだけど……心配してもらうのって、すごく幸せかも。

「ありがと。」
と、聞こえない小声で薫くんにお礼を言ってから、私は臼(うす)の前に立った。

どうすればいいかよくわからない。

とりあえず重たいので、既に出来上がってそうな白いつやつやしたお餅に、杵をペトリと置いてみた。

……あれ?
持ち上がらない。

チョンと置いただけなのに、杵にお餅がべっとりくっついてきて……お、重たい!

必死に持ち上げようと格闘するのだけれど、杵はお餅に完全にとられてしまった。

みんなに笑われて、泣きそうになってると、薫くんが助けてくれた。

「藤やん。杓文字(しゃもじ)。」

薫くんは私の背後から手を回して杵を持つ補助をしてくれて、藤巻くんに指示して、返し手と呼ばれる取り水をしながらお餅を返してくれる人から杓文字を受け取らせた。

藤巻くんは、なれた手付きで杓文字を使って杵からお餅をきれいにはがした。

「オッケー。桜子さん、そのまま、まっすぐ下ろしたら大丈夫。」
藤巻くんはそう教えてくれた。

「大丈夫?手ぇ添えてようか?」

薫くんはそう言ってくれたけど、周囲の冷やかしの目が痛かった。

「……ありがとう。やってみる。」

そう言うと、薫くんはゆっくり手を離して、私から離れた。

……今さらながら、気づいた。
薫くんに、背後から抱かれる形だったんだなあ、って。

意識したら、心拍数が上がった。
うれしいような、もったいないような……。

いかんいかん。
みんなが見てる。

よい……しょっと。

杵を担ぐように持ち上げる……重っ!
本当に重たくて、ふらつきそう。

慌てて、お餅の上に杵をおろした。
ぺちゃり、と気の抜けた音がした。

「もいっちょ!」
と、誰かが声をかけた。

……うう……お餅がくっついてきて、重たいよぉ。