実家も親戚もない玲子さんの結納は、一番親しいパパとママが代理で受け取る役を務めることになるらしい。
そして式と披露宴には、当たり前のように成之さんも出席をお願いされてしまったのだ。

聖人のような御院さんに頼まれて断れるはずもなく……結局2人は、身内として玲子さんの幸せな門出を見送る羽目に陥った。


「ママ、喜ぶねえ。玲子さんのこと、お姉さんのように慕ってるから。……引っ越しても京都なら、いつでも行けるよね。」

そう言ったら、パパの表情が曇ったように見えた。

……ほらほらほら。
パパ、わかりやすすぎるよ。

こんなパパの反応を見る度に、私は気づかない振りをする。

私の……遺伝子上の父親というヒトは、今もなお京都に住んでいるのだろう。
折に触れ、我が家に届くプレゼントもずっと変わらず京都からだし。

知りたくないと言えば、嘘になる。
でも、パパとママを悲しませてまで、確かめたいとは思わない。

いつものように、心の奥深くに閉じ込めた。


「じゃ、行くわ。とりあえず、真澄に報告。それから会社。……頼之くんと薫くんは、喜んで参列するって言うんだろうけど……。気が重い~。」
渋々、成之さんが立ち上がった。

「あ。私も行く。明田先生のアトリエの大掃除をしようと思って……」
「そういや、光くんもそんなこと言ってたな。さっちゃんのお友達の野木ちゃん?彼女の心配もしてた。……でも、さっちゃんは、これからじゃ遅くなるよ。暗くなる前に家に帰りなさい。」

パパはそう言って、おもむろに入口まで行き、ドアのプレートをひっくり返した。
貸切解除らしい。

確かに冬は日が暮れるのが早い。

光くんと野木さん、お掃除してくれてるかなあ……。
……まあ、いっか。

「……はぁい。」
怖がりな私は、断念して帰宅した。

結局、薫くんに逢えなかった……。
しょんぼり。



翌朝は、玲子さんがお迎えに来てくれた。

「おはよ。昨日は、御院さんを案内してくれたって?ありがとう。さっちゃんがいてくれて心強かったみたいよ。」
クスクスと笑って玲子さんが言った。

「……なかなか経験できない場に同席させてもらったかも。御院さんもやけど、パパも、成之さんも、複雑そうだったよ。」

そう言ったら、玲子さんは、弾けたように大笑いした。