「玲子には上等過ぎる紳士だな。」

藤巻さんが辞去されたあと、パパがそんな風に言った。

「生まれも育ちもいいんやろ。……緊張した~。」
成之さんは、ぐったりして、カウンターに突っ伏した。

「何代か前は華族だし、御院さんご自身ももしかしたら猊下になってたかもしれないかただから。」
私がそう説明すると、2人は目を剥いた。

「何や、それ!」
「マジか……玲子のやつ……。」

まるで子供のような2人に、私は笑ってしまった。
人前では、ほぼ標準語の丁寧語で通す2人なのに。

「うん。マジ。えーと、先々代の猊下にはお子さんがいなかったのかな?あれ?先々々代だっけ?確か娘さんが宮家に嫁がれて……」

「あー、そういう家なんだ。なるほど。納得。」
パパは、天を仰いだ。

「うん。だから、今の猊下の坂巻さんにお子さんができなかったら、次の猊下は、藤巻さんの息子さんの清昇くんになるんだって。」

そう言ったら、成之さんが心配そうに言った。

「……それで、周囲から反対されてたんだな。……てか、これからも大変じゃないか、それ。」
「玲子につとまるんかー?」
「パパ、失礼!ちゃんと耐えてがんばってはるよ、玲子さん。でもココじゃ玲子さんと成之さんのことが知れ渡っちゃってるから、京都に転勤することになったの。……結婚式、楽しみねえ。」

成之さんがどっと脱力した。
「……勘弁してほしい。何で俺まで出る必要あるんだ?」

「……俺も勘弁してしい。何で俺が結納まで……。」
パパも、自分でいれたコーヒーを飲んで気を落ち着けようとしていた。

「あら。だって、式を挙げてほしいって御院さんにお願いしたの、成之さんじゃないですか。」

私がそうつっこむと、成之さんはガバッと起き上がった。

「いや!普通は、家族だけでひっそりやるだろ?歳も歳だし。藤巻さんは死別とは言え二度目なんだし。」

「そうそう。ハワイとかグァムあたりで挙式だけで充分なのに、何で結納……。」

パパ、よっぽど嫌みたい。

でもまあ、確かに驚いた。

成之さんは、玲子さんがウェディングドレスすら着たことない、と嘆いていたことを御院さんにお話した。

すると、御院さんは、即座に打ち掛けでの仏式の挙式と、ウェディングドレスでの披露宴、当然結納もすると、日取りまで決めてから帰って行かれた。